これからの営業に求められているのは、単なる商品やサービスの販売にとどまりません。流通パートナーとの戦略的な協働や、お客様の価値創造、共感を生み出す取り組みこそが求められているのです。そのためには、個々の営業のスキルやマインド、流通の仕組みや取引制度、営業組織を変えていくことが必要になります。
では、いかにして変えていくか? そのために必要な考え方やノウハウがまとめられた『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)から抜粋してみました。

ペットフードの「アイムス」が行っていた有効な取り組み
かつてのように大規模な広告宣伝をすれば売れていく時代ではなくなってきています。むしろ、小売の現場での露出そのものが、今やメディアのようになってきています。
P&Gでは、「ラウンダー」(店舗で営業推進活動をする人)を使って店頭の売り場作りを行っていく費用は、マーケティングの予算から出されていました。テレビ広告を展開するだけでなく、店舗の第一線の売り場作りにも費用をかけたほうが、総合的にマーケティングの費用対効果が高いことが、次第に明らかになっていったからです。
その予算を使って「フィールド・マーチャンダイジング」(店舗巡回)や「ラウンダー」の組織を作り、指揮をしていくのは、営業の力になります。バイヤーとも協働しながら、いい売り場を作ってくれる優秀な「ラウンダー」をいかに送り込むか。そんな総合的なプロデュース能力が求められるようになっていったのです。
一つ、事例をご紹介しておきます。P&Gが1999年にM&Aによって吸収合併したペットフードの「アイムス」は、いち早くこの「フィールド・マーチャンダイジング」の重要性に気づいていました。
当時、マス媒体の広告宣伝を展開するほどブランドの規模と財務的余裕がなかったこともありますが、大型ホームセンターと大手ペットショップを中心に、全国数百店規模で「フィールド・マーチャンダイジング」を展開していったのでした。
店舗に派遣された「ラウンダー」は、ドッグフードやキャットフードの実物サンプルを、お客様に見えるように陳列していったり、POPを設置したりしていました。
また、大型ホームセンターでは、「ユーカヌバ」「アイムス」という2ブランドのサンプル商品の配布をしながら、お客様に商品説明をしてブランドの認知、試用と購買を促し、毎年、確実な売上と利益の成長を続けていました。
当時、「アイムス」はペット専門問屋経由で商品を市場へ配荷していたこともあり、日用雑貨や化粧品の営業部門とは別に、独立した専属の現場の営業部隊を組織化していました。
私は幸運にも、「アイムス」の営業企画とホームセンターなどのマスチャネルの営業責任者も兼任する機会に恵まれました。
犬猫の健康な歯や皮膚や毛づやを維持するために、オメガ脂肪酸などの健康的機能に基づく消費者(飼い主とペット両方)メリットのコミュニケーションを、店舗で商品特徴を伝えるPOPで展開。また、直接お客様とコミュニケーションしたり、サンプリングを行うことで伝達していき、売上とブランドエクイティ(ブランドが持つ無形の資産)の両方を向上させる仕組みの有効性を学ばせてもらったのでした。
同様に2005年に吸収合併されたパーソナルケアの「ジレット」も、「卓越的店頭実行:BRE(ブリリアント・リテール・エクスキューション)」と呼ばれる店舗巡回部隊を組織化していました。
特に、家電量販店ではジレットブランドの世界感あふれる売り場作りと実演販売を通じて、お客様への商品の価値訴求を効果的に行う販売活動などを実践していました。
当時、営業本部長だった私は化粧品、ペットフード、パーソナルケアの実務経験から、店頭マーチャンダイジングの戦略的価値を強く認識するようになっていきます。競合との劣位性をなくすだけでなく、独自の強みとして、競合ブランドに対抗できるような「フィールド・マーチャンダイジング」体制の強化を図っていったのです。
※本記事は『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)からの抜粋です。