これからの営業に求められているのは、単なる商品やサービスの販売にとどまりません。流通パートナーとの戦略的な協働や、お客様の価値創造、共感を生み出す取り組みこそが求められているのです。そのためには、個々の営業のスキルやマインド、流通の仕組みや取引制度、営業組織を変えていくことが必要になります。
では、いかにして変えていくか? そのために必要な考え方やノウハウがまとめられた『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)から抜粋してみました。

消費者はたった15秒で何を行っているのか?Photo: Adobe Stock

消費者は購入するかどうかを数秒以内に決定する

 多くのマーケターは、お客様の購買体験価値を実現する場所を、「第一の真実の瞬間(FMOT:the First Moment of Truth)」と定義しています。

「第一の真実の瞬間」とは、消費者が商品に対して初めての印象を持ち、購買決定を行う瞬間のことです。消費者が店頭で商品を見たとき、その商品を購入するかどうかを数秒以内に決定する重要な瞬間とされています。

「第一の真実の瞬間」は商品とお客様とのタッチポイントの一つであり、消費者の購買行動に大きな影響を与えるだけでなく、ブランドイメージの形成や競争力の向上にも寄与します。

 この「第一の真実の瞬間」において、単なる商品やサービスの提供を超え、心地良く、便利で、記憶に残るような「経験」を提供することができれば、「より高い購買経験価値」と「お客様の反感を買わない適正価格」との価値交換が可能になるのです。

 この「真実の瞬間」の提唱者が、スカンジナビア航空をV字回復させたヤン・カールソン氏でした。彼の著書『真実の瞬間:Moments of Truth』によると、スカンジナビア航空は成長を続けた後、赤字に転落していました。

 そこで彼は社長に就任すると、機内を見渡し「おかしいところはないか」と探っていったのです。

 彼が見たのは、旅客がそれぞれ搭乗ごとに平均5人の乗務員と一回当たり約15秒の接点を持っていたことでした。そして、その15秒の接触でスカンジナビア航空の印象が顧客の脳裏に刻まれ、この“真実の瞬間”の体験こそがスカンジナビア航空の成功を左右することに気がつきます。

 15秒の接触の総和がブランドの印象を決定づけるものだと知った彼は、この15秒を変えることに挑むのです。

 顧客に寄り添い、瞬時に個別のニーズに応えることができるサービスカルチャーへのチェンジに挑み、顧客視点のサービス改革、経営改革を実行し、2年連続赤字だった経営を見事に再建。その後、スカンジナビア航空を、世界有数の企業に押し上げることになりました。

 エアラインでは、わずか15秒の顧客接点が「真実の瞬間」でしたが、消費財メーカーでは顧客とのタッチポイントのうち、店頭(あるいはオンライン)での接点こそがまさに「真実の瞬間」となります。

※本記事は『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)からの抜粋です。