東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝える『大人のための地学の教室』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

【京大名誉教授が教える】「東日本大震災で大きなエネルギーが解放されたので、もうエネルギーは残っていない。したがって当分は地震がこない」はとんでもない間違い画像はイメージです Photo: Adobe Stock

東日本大震災は“観測史上最大規模”

 東日本大震災は千年に一回起こるかどうかという、非常にまれな、日本の地震観測史上最大規模の大地震でした。

 しかもマグニチュード(M)9.0という大きな本震のあとに、余震としてM7クラスやM6以上の巨大な余震が何度も起こっています。

 よく、「東日本大震災の地震で大きなエネルギーが解放されたので、もうエネルギーは残っていない。したがって当分は地震がこないのではないか」という質問を受けます。

 これはとんでもない間違いで、プレートにたまったエネルギーは、これからも震源域をどんどん広げながら解放される可能性が高くなっています。

 東日本大震災は、北米プレートに乗っている東日本の地盤のひずみ状態を変えてしまいました。ですから、東日本大震災以降、地震発生の形態がかなり変わってしまったのです。

私たちの足元で起こっていること

 日本列島の内陸部でも、2000以上ある活断層が活発に動き出す懸念が生じています。地震を考える際に欠かせないのがプレート・テクトニクスです。

 これまでにお話しした部分もありますが、おさらいも兼ねて、その話からはじめましょう。

 日本列島は四つのプレートが取り囲んでいます。海洋プレートが二つ、大陸プレートが二つです。

 海洋プレートは太平洋プレートとフィリピン海プレートで、大陸プレートは北米プレートとユーラシアプレートです。これらの四つのプレートがひしめき合っていて、「変動帯」となっています。

 変動帯とは地殻変動などが激しくて活発な帯状の地帯のことです。ウェゲナーが最初に「大陸は移動する」というアイデアを出して、それが実証されてプレート・テクトニクスになりました。

 地球上の表面は10枚ほどのプレートがあって、それが水平に動くということです。

 水平に動いたプレートはどうなるかというと日本列島でぶつかって片方が斜め下に沈み込むんです。

 図は日本列島の地中の様子です。

【京大名誉教授が教える】「東日本大震災で大きなエネルギーが解放されたので、もうエネルギーは残っていない。したがって当分は地震がこない」はとんでもない間違い図:地震と津波が発生する仕組み(イラスト:田渕正敏)

 日本列島が乗っているところで、海洋プレートが年間に8~10センチメートルの速度で沈み込んでいます。

 大陸プレートはそれに応じて引きずられる。どんどん引きずられていくんですが、あるところで限界に達すると跳ね返ります。これがプレートを原因とする大きな地震の仕組みです。

 ボンと跳ね返るのですが、海のなかの話だから、海底が隆起することになる。すると、その海底の上の海水は高さ30メートルぐらい持ち上げられ、行き場を求めて左右(東西)に動くんです。

 左(西)側に動くと日本列島があるので津波になります。津波は最初とても速い速度で、時速は約500キロメートルもあります。

 陸上に近づくと遅くなりますが、その一方で、波が高くなっていくわけですね。2011年の東日本大震災(学問上の正式名称は東北地方太平洋沖地震)では最大で高さおよそ20メートル近い津波に襲われました。

東日本大震災の起きた場所

 東日本大震災はどこで起きたかというと、日本海溝です。海溝とは読んで字のごとく、深くて溝になっているところですね。ここで太平洋プレートが北米プレートに沈み込んでいる。

 深さにして1万メートルぐらいのところで、太平洋プレートによって引きずり込まれた北米プレートが跳ね返って起きたのが東日本大震災です。

 この地震はマグニチュード9.0という地震でした。これまでもマグニチュードという言葉を使ってきましたが、今回は地震がテーマだからあらためて説明すると、マグニチュードとは地下でエネルギーが解放される大きさです。跳ね返る部分の面積が広いと数字が大きくなる。

 そして、マグニチュード9.0という規模の地震は、これまで日本列島では千年間なかった。つまり東日本大震災は千年ぶりの超巨大地震だったんですね。

 参考資料:【京大名誉教授が教える】首都直下地震で「最も被害が大きいと予想されるエリア」とは?

(本原稿は、鎌田浩毅著大人のための地学の教室を抜粋、編集したものです)

鎌田浩毅(かまた・ひろき)

京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は110万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。