東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝える『大人のための地学の教室』が発刊される。西成活裕氏(東京大学教授)「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

「首都直下地震」でいちばん怖いのは…
首都直下地震についても詳しく見てみましょう。日本列島はどこでも直下型の地震が起きる可能性がありますが、特に首都圏は被害が大きいので、防災上、強調して首都直下地震と呼んでいます。
内閣府の中央防災会議でそういうふうに決められたんですね。それはいい発想だと思います。あんまり細かくわけたところで一般の方はわからない。
だから細かいことは抜きにして、首都直下地震にみんな気をつけてくださいということです。
その主な原因となるのは活断層で、20キロメートルの長さの立川断層や21キロメートルの伊勢原断層のように実際に目に見えるものもあれば、地下に隠れているものもあります。
フィリピン海プレートの境目で起きても首都圏に大きな被害が及べば、首都直下地震に含まれます。
エリアでいえば2021年12月の富士五湖の地下を震源とする地震も首都直下地震の範囲内だそうです。これには僕も「おおっ、ここも含まれるのか」と思ったけれど、これぐらいの広いエリアを想定しているんです。
関東在住の方にお伝えすると、首都直下地震でいちばん怖いのが東京湾北部地震です。それは東京湾の近くの隅田川の下流や中央区の月島あたりが震源域で、この地震が首都直下地震のなかでは最も被害が大きいと予想されています。
首都直下地震は規模については最大マグニチュード7.3で防災対策が立てられています。それが隅田川の真下で起きたら怖いですよね。
火災旋風と「木造住宅密集地域」
2021年12月の富士五湖の地震はニュースにもなったし、なかには揺れを体験した人もいるでしょう。その地震はマグニチュード4.8で、マグニチュード7.3はその地震のおよそ1000個分ですから、そう考えると首都直下地震の大きさのイメージが湧きますよね。
もう一つ、最近起きた地震とこれから起きることが予想されている地震を比較すると、富士五湖と同じ日に和歌山県で起きた地震はマグニチュード5クラスです。南海トラフ巨大地震はそれを10万個以上集めた規模なんですよね。
それから首都直下地震で怖いのが火災です。首都圏にお住まいの方はあとで地図を見てください。道路の環状六号線と八号線の間は「木造住宅密集地域」(略して木密地域)に指定されていて、そこから出火すると「火災旋風」が起こる可能性があります。この問題はまだ解決していません。
インフラが劣化する日本
もう一つ大事なことは建築物の老朽化です。僕はこの警告を20年ぐらいしているけれど、さらにこの20年分、どんどん建物が古くなっているんですよね。それから橋や道路なども経年劣化で弱くなっている。劣化したら補修をすればよいのですが、その予算が足りない。
いま日本の経済は元気がないし、世界もそうだから、インフラに対する投資が少なくなってきているんです。すると、10年前、20年前なら大丈夫だったかもしれないけれど、いまは同じ揺れで、橋が落ちるかもしれないし、ビルが壊れるかもしれない。
南海トラフ巨大地震は2030年代に起きると言われているけれど、それまでに都市のインフラはだんだんと古くなって弱くなる。メンテナンスしなきゃいけないけれど、そのお金がないから放置されたままという状況なんです。これも僕が心配する要素です。
この問題への対策をいまのうちに考えないといけない。国の予算もそうだし、個人としての対策もそうです。これも行政などの関係者やみなさんに広くお伝えしたいことです。
(本原稿は、鎌田浩毅著『大人のための地学の教室』を抜粋、編集したものです)
京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省 (現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。 専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は110万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。