だが、こうなってはもう否応なしに、そのことを認めねばならない。

 続いてやってきた症状は不眠だった。

 呑んでいた頃は、いつも酔っ払って眠りについたおかげで寝付きが良かった。ところが酒をピタリとやめたとたん、まったく眠気が訪れない。ベッドに横たわり、目を閉じる。意識が冴えてあれこれと考えてしまう。

 溜め息をつき、寝返りを打ち、眠れないからと、また溜め息をつく。

 昔から不眠になったときは、あっさりと諦めたことを思い出した。

 部屋の明かりを点けて、書斎に入り、仕事をした。さいわい自由業である。翌朝の出勤がない。昔は毎朝、犬の散歩がてら、子供たちをスクールバスの停留所まで送っていたが、今は彼らも大人である。だから決まった時間に無理に起きなくてもいい。

 眠れないのなら、これさいわいと原稿書きに専念する。また、読書をし、あるいは映画を観て夜更かしをしたりもした。

不眠の次に襲ってきた
3つの離脱症状

 5日目辺りからようやく眠れるようになったはいいが、今度はひどい寝汗に悩まされた。

 健康な人はひと晩の就寝中にコップ1杯程度の汗をかくというが、そんなものじゃない。冗談抜きにバケツ1杯分ぐらいの汗をかいて、そのため布団がまるで水浸しになったみたいになる。たまらず掛け布団を剥ぐと、温泉のように湯気がモウモウと立ち昇って驚く。

 断酒を始めたのは5月。過ごしやすい季節なのに、真夏の発汗以上で驚くべき量だった。

 仕方なく、寝間着代わりのジャージと下着をすべて脱いで、新しいものに着替え、水を含んだスポンジみたいに不快に湿った布団にもぐり込んだ。

 翌朝、デッキの手すりに布団を干していると、そこに大きなハエが大量にたかっていてびっくりした。気持ち悪くて、シーツを取り替えなければならなかった。

 飢餓感と不眠と寝汗。それが私に来た3つの離脱症状だった。

 断酒治療開始から1年後の継続率はわずか3割だという。

 酒を断った人のほぼ半数が2カ月半以内に再飲酒に走り、けっきょく7割程度が1年以内に呑んでしまう。達成率3割という狭き門。それだけ困難で根気のいることなのだろう。

 酒の海からの生還は難しい。だからこそ断酒には気力と体力が必要といわれるのかもしれない。