「会話の反応が鈍い人」の頭の中では何が起こっているのか?写真はイメージです Photo:PIXTA

会話についていけなかったり、ちょっとした回答を求められただけなのに混乱したり、対応力や判断力が最近低下している…それは、もしかしたら「不自由な脳」が原因かもしれない。脳梗塞(こうそく)を発症し「高次脳機能障害」によって脳の認知機能の低下を経験した著者が、脳の不調がもたらす日々のトラブルについて解説する。※本稿は、鈴木大介『貧困と脳 「働かない」のではなく「働けない」』(幻冬舎)の一部を抜粋・編集したものです。

担当会議の難しさが原因で失職
呼集があるだけでパニックに

 自分自身が不自由な脳の当事者となって、改めて瑞葉さん(編集部注/かつて筆者が「不動産ローン破綻」の当事者として取材した女性)の取材メモを読み返した際、「ああ!彼女はこの状況を伝えようとしていたのか!」「こんなにもリアルに症状を説明してくれていたのに、一体俺は何をやっていたんだ!」と最も強く後悔し、頭を抱えてしまったのが、彼女が最終的な失職の原因だったとも語った、「担当会議の難しさ」についての証言だ。

 瑞葉さんは会議の難しさとして、顧客を前にしたプレゼンの場でジャストアイディアが出てこなくなってしまったことへの落胆も語っていたが、何より繰り返し切々と語っていたのは、社内の単なる担当会議で自分がその新規案件のチームに加わって大丈夫なのかどうかの判断ができなかったこと。

 そして「断るにしても断る理由を説明できないこと」でどんどん追い詰められていき、最終的に会議の呼集があるだけでパニックを発症するに至った経緯だった。

 だがいま思えばこれもまた、その背後に不自由な脳の当事者が抱える普遍的な症状・不自由が含まれた証言だったと気づく。

 その不自由とは「臨機応変・咄嗟の対応力の喪失」「現況の把握力、判断力、自己決定力の喪失」、そして駄目押しに「論理的コミュニケーション力の喪失」である。

 ひとつずつ読み解いていこう。

話についていこうとしているのに
「反応が鈍い」と思われてしまう

 まず不自由な脳の共通点として、脳の情報処理速度が全体的に遅くなることがある。これが招くのは、咄嗟の現況把握・判断力の喪失=「一般人の思考ペース・対話ペース・判断速度についていけない」という不自由だ。

 僕の場合、それこそ発症当初は、世の中のあらゆるスピードが速く感じられ、エスカレーターに乗るにも車の行き交う道を渡るにも、どのタイミングで一歩踏み出せば渡れるのかわからないありさまだったし、雑踏で次々にこちらへと向かってくる人を「左右どちらに避ければいいのか」すら咄嗟に判断できず、その場で立ちすくむしかないシーンもあった。

 対話のシーンはもっと酷い。何気なく普通に話しかけられても、相手がものすごく早口で話しているように感じるし、何よりも「いきなり、唐突に」話しかけられたように感じ、無駄に驚いてしまう(モードチェンジが異常に遅く、いちいち驚きが伴う)。