いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

続けたいのに続かない理由
結局、どんなことも「続ける」ことができれば成功する。
たとえば生成AIについて、いまはチンプンカンプンでも、毎日試行錯誤しながら使い続ければ、そのうち使いこなせるようになって、やがては人に教えられるまでになるかもしれない。
ダイエットだって片づけだって、(やり方が間違っていないことは前提としてあるが)続けることさえできればいつかは成功するはずだ。
それはわかっているのに、多くの人は続けることができない。私などはもう最初から諦めているから「三日続けばよし」と思っている。
なぜ続かないかといえば、すぐには成果が出ないからだ。しばらくの間、頑張っているのに何も変わらなく見えたり、やってもやってもムダであるように感じたりする。すると、いやになったり、単純に忘れたり飽きたりしてしまう。
変えるのが難しい「思考の習慣」
いま述べたのは行動の話だが、思考を変えるのはもっと難しい。
たとえば、やりたいことがあっても「人の目が気になる」という思考の癖を変えたいとする。そこで、「他人の評価は自分の幸福にとって何の関係もない」という考え方を意識しようと思う。
最初のうちは、人目を気にしている自分に気づいて「ああ、そうだった、他人の評価は関係ないんだった」と思い直すが、次第に忘れて、いつも通りの思考に戻ってしまう。
行動であれば、「今日も行動できた!」と認識しやすいので、継続することに達成感を感じられるが、思考は目に見えないからそれも難しいのである。
しかし、思考を変えるインパクトはものすごく大きい。思考が変われば自然に行動も変わるはずだから。
ストイシズムの哲学者エピクテトスは、思考の果実を得るのを急ぐなと言っている。
偉大なものは突然生まれない
一房のブドウや一玉のイチジクであっても、いきなり実ることはない。
いま「イチジクがほしい」と言われたら、まずはイチジクの花を咲かせ、次に果実をつけさせ、さらにそれを熟させる。
イチジクの果実ですら、ほんの一時間で熟すことはないというのに、それでもなお、それほど短い時間で、それほど簡単に、思考の果実を手に入れようというのか?(エピクテトス『語録』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より
人は自分を変えようとすると、すぐに変化を期待しがちだ。しかし、実際にはすぐには変われない。だから、気持ちが沈んで挫折してしまう。
そうして焦りが生まれたときは、「偉大なものは突然生まれない」という一言を思い出してほしい。心がパッと前向きに変わるのを感じられるはずだ。
一歩一歩、時間をかけて継続する
思考を変えるのは簡単ではないが、良い方法がある。
それは、先述のエピクテトスの言葉のようなストイシズムの名言に毎日触れることだ。短い言葉を読むだけなら簡単で続けやすい。その言葉をきっかけにして、自分の思考を振り返ればいいと思う。
私自身、『STOIC 人生の教科書ストイシズム』をここ1カ月間毎日開き、短い言葉に触れている。
すぐにはわからない言葉もある。それでも毎日、言葉を見て自分の思考を振り返っていると、良い方向に変化してきていることを感じるのだ。
(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)