東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝える『大人のための地学の教室』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

日本が直面する自然災害
日本列島で起きる地震には震源域が海底にある海の地震と陸の地中にある陸の地震があり、東日本大震災は海の地震です。
東日本大震災では東日本が甚大な被害を受けましたが、今度は同じ海の地震が西日本を襲う恐れがあります。
それがフィリピン海プレートの沈み込み地帯で起こる南海トラフ巨大地震で、発生するのは2035年プラスマイナス5年と予測されています。
ただ、2035年といっても、ピンポイントではなく、「2034年12月31日までは南海地震は起きない」という話ではない。
それで、前後の5年を取って、わかりやすく2030年代と表現しています。そうすると国も自治体も動きやすくなりますからね。「2030年代に大きな地震が必ず起きるからいまから準備してください」という数字なんです。
僕は講演会でも、「その10年の間で確実に起きますよ」と説明します。
6800万人の被災者という衝撃
南海トラフ巨大地震の規模は東日本大震災がマグニチュード9.0で、南海トラフ巨大地震はマグニチュード9.1だから、ほとんど一緒か少し大きいぐらい。
エネルギーの放出量は一緒だけど、多くの人が住んでいる場所というのが悪い。被害総額はGDP(国内総生産)にすると約30パーセントで、東日本大震災はGDP3パーセントのところだったから10倍になります。
いわゆる太平洋ベルト地帯で経済生産量が10倍なわけです。だから被害総額が10倍になると予想されるんです。
そして、6800万人の被災者が出て、そのなかの32万人が犠牲になる。
お金は全国民が納める税額の3年分にあたる220兆円が消える。このような大きな災害が2030年代に起きる可能性が極めて高いことがわかっています。
とんでもない津波と富士山の噴火
そして東日本大震災と同じように、南海トラフ巨大地震でも直後に津波がきます。最大で34メートルと予想されるとんでもない津波です。
いちばん早いところでは3分後ぐらいに陸に到達する。東日本大震災は20メートルぐらいの津波が小一時間ぐらいでやってきたけれど、それよりも早く、しかも大きい。
なぜなら震源域が陸に近いから。地震のエネルギーは同じぐらいの大きさですが、震源域、つまり地震が起きる場所が陸に近いから津波があまり減衰しないで陸を襲います。
その後は富士山の噴火です。前回は地震の49日後だったから、しばらく時間がかかるでしょう。メカニズムを見ても、マグマだまりが揺すられて不安定になり、水が水蒸気になって噴火するからすぐではない。
でも、やがては起きます。
つまり地震、津波、噴火という3点セットを考えなくてはいけないのです。
首都直下地震の危険性
そして、それとは別に東日本大震災で大陸プレートが引き延ばされたことから、陸の地震である首都直下地震がまさにいつ起きてもおかしくない状況になった。もとの状態に戻るにはだいたい30年かかり、2024年現在はまだ13年しか経ってないから、あと20年ぐらいは地震がとても起きやすい状態です。
ペースでいうなら、首都直下地震は100年に1回ぐらいは起きているんですが、ここのところは起きていないからエネルギーがたまっている。
明日かもしれないし、30年後かもしれない。場所についても、19か所も活断層があって、どこで起きるかわからない。
これは防災上、非常に困るんですが、ただ、被害の規模はわかっている。地震のエネルギー自体は海の地震ほど大きくはないけれど、首都圏は人口が多いから被害は東日本大震災の5倍と予想されている。
他人事で終わらせないための知識
そのほかにもこれから西日本で起きる地震は増えます。東日本は減っていくけれど、これから20年ぐらいは活発な状態が続きます。
そういう土地に僕たちは住んでいるということです。だんだん怖くなってきたでしょう。
でも、それでどう準備するかということが大事なんですよ。日本人1億2500万人が直面している課題ですからね。
でも、多くの人は他人事のように思っている。それをいま、我が事にしてもらうのが私の目的の一つなんです。
参考資料:【京大名誉教授が教える】首都直下地震で「最も被害が大きいと予想されるエリア」とは?
(本原稿は、鎌田浩毅著『大人のための地学の教室』を抜粋、編集したものです)
京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は110万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。