ディープフェイクの法規制は発展途上
抑止策は決め手を欠いたまま

 技術的対策と並行して、法的・規制的な対策も不可欠である。EUのAI Actは(編集部注/AI技術を幅広く規制する世界初の包括的なAI規制法。リスクに応じて要件や義務、罰則を定めているのが特徴)、生成AIによって作成されたコンテンツに対する明確なラベリングの義務付けを目的としており、欧州においては、選挙におけるディープフェイクの悪用を防ぐための重要なステップとなるだろう。

書影『生成AI・30の論点 2025-2026』(日本経済新聞出版)『生成AI・30の論点 2025-2026』(日本経済新聞出版)
城田真琴 著

 一方、米国ではディープフェイクに対する法的規制はまだ発展途上にある。しかし、2024年9月に米カリフォルニア州知事がディープフェイク画像や音声・動画コンテンツを用いた選挙広告を規制する法案に署名したことで、一歩前進したかに思われた。

 しかし、署名からわずか1日後に、表現の自由の侵害だとしてこれを阻止する訴訟を起こされてしまった。連邦地裁はこの訴えを認め、新法の執行を一時的に中止する仮差し止め命令を出した。

 結局、連邦レベルでは法制化に至らないまま大統領選に突入し、抑止策は決め手を欠いたままである。

結論
 ディープフェイク技術の進展は、選挙における情報戦を大きく変えつつある。AI技術の進化に伴い、ディープフェイクコンテンツの品質はますます向上し、それに対する技術的、法的対策も進化していかなければならない。現時点ではディープフェイクによる誤情報の拡散を完全に防ぐ手段は存在せず、今後も技術的対策と規制の両面から粘り強くアプローチしていく必要がある。