握手するビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

GAFAに代表される大手テック企業は、AIスタートアップ企業と敵対するように思えるが、実は着々と規制に引っかからないような「隠れ買収」を行なっている。このままでは大手テック企業が、ますますIT市場を席巻することになるという。本稿は城田真琴著『生成AI・30の論点 2025-2026』(日本経済新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

「隠れ買収」で40億ドルの
新興AI企業が消えた日

 マイクロソフトやアマゾン、グーグルといった大手テック企業が、AIスタートアップとの間で従来のM&Aとは異なる形の提携を結ぶケースが増えている。その特徴は以下の通りである。

・スタートアップの技術やIP(知的財産)のライセンス供与を受ける
・創業者を含む従業員の大半を直接雇用する
・スタートアップ企業自体は法的に存続させる

 この手法により、大手テック企業は実質的にスタートアップを傘下に収めつつ、形式上は独立した企業として存続させることができる。業界では、この手法を「隠れ買収」と呼ぶ声もある。代表的な事例は以下の通りである。

(1)マイクロソフト×Inflection AI
 2022年に設立されたInflection AIは、自然な会話を通じてユーザーに情報提供や感情的サポートを行う個人向けAIアシスタント「Pi」を開発していたが、2024年3月、同社はマイクロソフトと以下のような取引を行った。

・6.5億ドルをベンチャーキャピタルに支払い、InflectionのAIモデルをマイクロソフトのクラウドサービスAzure上で提供
・Inflectionの共同創業者2名(Mustafa Suleyman氏とKaren Simonyan氏)と大部分のスタッフをマイクロソフトが直接雇用
・Suleyman氏は新設された「Microsoft AI」部門のCEOに就任

 Inflection AIは設立から約1年で13億ドルの資金を調達し、40億ドルの評価額を得るなど、急成長を遂げていたものの、OpenAIやアンソロピックなどの競合他社との差別化に苦戦し、持続可能なビジネスモデルの確立に課題を抱えていた。マイクロソフトとの提携直前には、追加の資金調達が困難になっていたと報じられていた。

アマゾンもグーグルも…
「隠れ買収」の内幕

(2)アマゾン×Adept AI
 Adeptは2022年に設立され、既存のソフトウェアやアプリケーションを自動操作する汎用AIエージェントの開発に取り組んでいたが、2024年6月にアマゾンと以下のような取引を行った。

・Adeptの従業員(100名前後とされる)のうち66%がアマゾンに移籍
・移籍した従業員にはCEOのDavid Luan氏を含む5人の共同創業者が含まれる
・アマゾンはAdeptの技術ライセンスを取得し、アマゾンの「AGI Autonomy」チームの開発を加速