今や世界をIT技術で寡頭支配するアマゾン、グーグル、フェイスブック、アップル、マイクロソフトといったIT超大手GAFAM。IT技術がより良い世界を創り出すと主張する一方で、彼らは決して自分たちの手で貧者を救おうとはしないのだという。私たちはGAFAMが提供するあらゆるサービスなしでは生きていけないほど依存しているが、彼らのような「テックオリガルヒ」が、新しい格差を再生産しているという危険な現実は、あまり知られていない。本稿は、ジョエル・コトキン著、寺下滝郎訳『新しい封建制がやってくる』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです。
ビル・ゲイツがうちに秘める
「能力主義社会」とは
今日のIT企業経営者は、中間管理職を自分の仲間だとは考えていない。ましてや組立作業員や熟練工などは視界の外にある。その世界観は、学歴のある上層労働者階級と共通する。CEOを含め、彼らの仲間には理系の博士号取得者が多く、テック企業の幹部人を対象にしたある調査では、大半が工学、計算機科学、ビジネスなどの分野で一流大学の学位を取得していることがわかった。学位を持っていない一部の者も、エリート教育機関の中退者であった。
「ソフトウェアはIQビジネスだ」とは、自らもハーバード大学の中退者であるビル・ゲイツの言葉である。「マイクロソフトはIQ戦争に勝たなければならない。さもなければ、われわれに未来はない」と彼は述べた。
テックオリガルヒは、オルダス・ハクスリー(編集部注/『すばらしい新世界』などで知られる作家)の言う「科学的カースト制度」のようなものをつくり上げようとしている。
それは、企業が管理職、マーケティング担当者、エンジニア、技術者、倉庫作業員、営業マンなど、さまざまなスキルを持つ人材に依存していた工業時代とは異なる。これらの職種にはたいてい(少なくとも製造業やエネルギー産業では)組合があったため、経営陣は曲がりなりにも事業の進め方について多様な意見を考慮せざるをえなかった。