大阪都構想で存続の危機が高まる飛田
開沼 「飛田に組合がある」という話は一般にもある程度知られていますが、秩序維持機能を持ち、ある種の「自主規制団体」的な役割を果たしているというのは興味深いですね。ほかにも組合が担ってきた意外な役割はありますか?
杉坂 あとは国のためになること、福祉的な部分はみんなで積極的にやっていこうという動きがあります。月2回、各オーナーさんたちが集まって街の掃除をしています。それから催し物をしたり、地元の人に対して夏祭りの神輿をしたり、冬は餅つき大会。飛田という名前を持つ団体には組合以外にもいろいろあって、さまざまな活動をしています。
社会学者、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。専攻は社会学。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポルタージュ・評論・書評などを執筆。読売新聞読書委員(2013年~)。
主な著書に、『漂白される社会』(ダイヤモンド社)、『フクシマの正義「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)など。
第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。
開沼 まるで良質な地域づくりNPOみたいです。そういう飛田の事業者や地域社会を行政との間に入って中間的に取りまとめる組合があるがゆえに、一見すると猥雑で無秩序そうなものもほどよく管理されているということですね。
ただ、その一方で、地域と関わろうとするそうした活動は、飛田という、普段はその内実が外から見えにくい存在が可視化されるという機能も持つんじゃないでしょうか。そういう活動に対して、「目立つことをするな」と吊るし上げようという動きが出ているという側面もありますか?
杉坂 それはあると思います。
開沼 同じように、書籍として扱うとそういった動きを喚起してしまうため、書面に残すことを避けていた面、つまり「寝た子を起こすな」と内部の人が内実を語ることをしなかった傾向もあると思いますが、杉坂さんがあえてその内実を文章化し、書籍にしたことにはどんな想いがあったんですか?
杉坂 プラスに働くのか、それともマイナスに働くのかは、ある意味賭けでしょう。ただ、僕は飛田という街が残ってほしい、そのためにはもっと飛田を知ってもらいたいと思っています。これまで知らなかった人にも知ってもらいたいと思って書きましたね。
まず、いまの飛田が直面している問題を知ってほしい。もしかしたら橋下市長の「大阪都構想」にも入っているかもしれませんが、飛田がいま存続の危機に直面していますよと訴えたかったところはあります。
開沼 橋下市長が顧問弁護士をしていたんですよね?記憶はありますか?
杉坂 あんまりないんですよね、というか正直街には来ません。テレビに出る前はちょっと来てましたけど、それこそ当時は若造ですよね。もともとスタッフが来られてましたし、もちろん、いまとなってはまったく来ないですよ。
開沼 なるほど。飛田や西成の方々の中には、いまも橋下市長に対する恩義を感じている人はいるんですか?
杉坂 そうですね。なんやかんや言いながら西成を守ってくれるんじゃないかと、僕らは信じています。