「生活レベルを落としたくない」と働く女の子
開沼 スカウト以外で飛田で働いている方、「親方」(経営者・オーナー)も「おばちゃん」(店の受付・管理を担当)も「女の子」(店で働く女性)も、それぞれいろんな想いを持って集まって来ていると思いますが、他方で、こういった街がこれから衰退していく、あるいは取り潰されていく流れが強まる可能性もあります。
杉坂 存続のためにいま打てる策は、飛田をクリーンなイメージに持っていこうということですね。それも組合が行っています。
開沼 なるほど。
杉坂 2年ほど前、イメージ広告的なホームページを作ろうという動きもあったみたいですが、それがいいのかどうかという話になっていまは保留になったようです。だけど、組合のトップのほうはまだ諦めてないと違いますか。ホームページを作ることで、プラスになるのかマイナスになるかをずっと考えてると思います。
この10年間に限っても、街路灯をきれいにしたり、狭い道ですけど歩道を作ったり、道路にオレンジのレンガを使って美しい街並みにする。店単位ではなく、組合に集まったお金で街並みを美化することで飛田を存続させようと努力しています。
開沼 もちろん、儲けたいと思ってやって来る人がいる反面で、他の仕事では儲けられない、いろいろな事情から借金を抱えているような人が集まっているというイメージもあります。だとすれば、飛田の街の機能として、そういった方たちをもう一度社会に包み込んでいく機能も持っていると思うんですが、いかがですか?
杉坂 借金抱えてやって来る人間はいますが、そういう人は逆に続かないんですよ。特に、娯楽によっておこした借金で来た女の子はまず続かないです。親の会社の負債や親が倒れて借金したという子は一所懸命なので、めちゃくちゃ真面目に働きますね。
ただ、「借金抱えたから飛田に来る」というイメージがすごく大きいですけど、借金抱えて飛田に来るしかなくなった子は、僕の見た限りでは2割程度でしょうね。ほとんどの女の子は、生活費の足しにしたいという目的です。
いままで25万稼いでいたOLさんが、残業がなくなって20万、15万の給料になってその差額を稼ぎたいと。夜の世界の女の子でも、いままで50万稼げていたキャバクラの女の子が、頑張っても30万くらいしか稼げないらしいんでね。その差を埋めたい、生活レベルを落としたくないという子が来ます。
開沼 なるほど。「真面目な人」じゃないと続かないというのは意外ですね。
杉坂 ただね、生活費を稼ぎにきた子は、ちょっと「稼げるな」と思うと、また金を借りる枠ができたなと思って借金を増やすんですよ。借金を作ってこっちに来て働いて、金を返し終わったら辞める。それで、また借金作ったら働く。辞めても借金の額はどんどん増えていくから、また来るんですよね。
でも、女の子はだんだん年いってくるから上がら(指名され)なくなってきますよね。女の子にはそういうジレンマがあって、飛田で働いても返せないくらいの借金になると、飛びます。
開沼 彼女たちがはじめにソープやヘルスに行かずに、飛田という大阪の特殊な業態にやって来るのは、飛田という場所がその地域では悪くない場所として分析されているからなんでしょうね。その認識はいまでも変わりませんか?
杉坂 仕事としてはそうでしょうね。あらゆる風俗の子に聞くと、「飛田の仕事が一番ラク」だって言いますよ。ほかの風俗はワンクール60分が基本ですよね?飛田は15分が基本なので。正直、ほとんどの女の子が知らない客と長時間はいたくないんですよ。仕事内容が月とスッポンくらいラクだと言います。