8月5日から19日までの2週間で、上海総合指数は20%下落した。4日、同指数は年初来85%上昇となる最高値を付けていた。

 上海市場は、いまや世界の株式市場のセンチメントを左右するリード役。日本の市場関係者もその行方に気をもむが、相場を押し上げていた過剰流動性は解消しておらず、今回の下落は一時的な調整にとどまるというのがおおかたの見方だ。ただし留意すべきは、同国市場に「上昇でも下落でも、一方に傾きやすい」(神宮健・野村資本市場研究所北京代表処主席代表)という“構造的問題”が内在していることである。

 まず、市場参加者の層が薄い。個人投資家の比率が大きく、2007年の統計では、時価総額で約半分、投資信託を通じたものも含めれば4分の3が個人による投資だ。彼らの多くは、「投資対象もよく知らないまま、上がっているから買っている。逆に下がり始めるとパニックになる」(神宮代表)。

 一方で、機関投資家は質・量共に未発達であるうえ、「本来、市場価値適正化に寄与すべき機関投資家が、個人投資家をミスリードしてむしろ変動をもたらす要因となっている」(劉家敏・みずほ総合研究所アジア調査部中国室研究員)との指摘もある。

 結果、“政府がなんとかしてくれるだろう”という投資家側の期待が大きくなり、「天井もボトムも政府が決める“政策相場”」(神宮代表)になってしまう。

 制度上、取引は現物しか許されておらず、信用取引、先物、オプションといった“選択肢”がないのも、相場動向が一方的になりやすい要因だ。透明性、公正性の確保も急務である。「企業の保有株売却やIPO・増資が、往々にして株主あるいは企業の利益のためではなく、一部の企業トップ層の利益のために行なわれるのが実情。08年の暴落は、それによる投資家の信頼崩壊が、大きな要因になった」(劉研究員)。

 中国株式市場はいまや時価総額で米国に次ぐ世界第2位であり、日本をはじめとする各国市場への影響力は高まるばかりだ。政府は段階的に改革を進めており、証券当局は09年の政策目標として、市場・法制インフラの整備や機関投資家の育成などを掲げている。

 10月には新興市場「創業板」がスタートし、信用取引導入もタイミングを見計らっている状態である。だが、対応を誤れば、世界株式市場の大波乱要因ともなりかねない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)

週刊ダイヤモンド