
中国全人代が閉幕
経済成長率目標は「5.0%前後」に設定
中国で1年に1度の全国人民代表大会(全人代)が3月5~11日の日程で開催された。初日に李強首相による「政府活動報告」(日本の「首相施政演説」に相当)が発表され、主要経済目標などが発表された。
毎年最も注目される経済成長率に関しては、「5.0%前後」と昨年と同水準に設定された。一方、李強首相が「この目標を実現することは簡単ではない。厳しい努力をしていかなければならない」と危機感を露わにした点は重要である。
「従来以上に積極的な財政政策」と「適度に緩和的な金融政策」といったマクロ政策を総動員する形で、5.0%という目標を達成すべく動いていくのが必至である。言い換えれば、成長率目標は昨年と同水準だけれども、それを達成する難易度は昨年よりも高い、という現状認識を共産党指導部は持っている、というのが筆者の解釈である。
例として、財政政策を見てみよう。
昨年の政府活動報告において、2024年の財政赤字は対GDP(国内総生産)比で3%、金額では前年比+1800億元の4兆600億元(約84兆円)と示された。
一方「従来以上に積極的に」と謳った今年は、GDP比4%で昨年よりも1ポイント上昇。金額では、昨年よりも1.6兆元多い5.66兆元と提示。また、昨年から発行している超長期特別国債は昨年より3000億元多い1.3兆元。加えて5000億元の特別国債を発行し、大手国有商業銀行の資本増強につなげると提起した。
また、インフラ投資などに活用する地方政府特別債は昨年より5000億元多い4.4兆元を発行し、主に、投資、土地、住宅、地方政務による企業への借金返済などに使うとしている。
今年の「政府活動報告」が示す経済目標のなかで、筆者が最も注目したのが物価上昇率であった。昨年と一昨年、CPI(消費者物価指数)の目標は3.0%前後と設定されてきたが、結果はいずれも0.2%上昇に留まっていた。目標と現実が明らかに乖離(かいり)する中、中国経済がデフレに陥っているという懸念が高まる中、今年、目標設定をどのあたりに据えるのかに注目していた。
結果は「2.0%前後」ということで、1ポイント下方修正した。これが何を意味するか。中国共産党指導部として、中国経済がデフレ基調で推移している現状を認めたことを意味する。実際、2025年2月のCPIは前年同期比で0.7ポイント下落。中国経済を巡るデフレ圧力が強まると同時に、中国発のデフレが海外に輸出されるリスクも高まっている。
筆者から見て、1ポイント上方修正された財政赤字率と、1ポイント下方修正された物価上昇率は、中国経済が昨今直面する景気の下振れ圧力を如実に示している。「トランプ関税」を含めた外部環境を巡る不確実性も増しており、今年の中国経済は昨年と比べて一層困難な動向を示す可能性が高いだろう。