普通であることへのリスペクト
一方で、自分たちの“サラメシ”事情はどうだったのか。ランチ時に昼ごはんを取材していれば、やはりおなかは減る。朝、ロケ前にコンビニでおにぎりやサンドイッチを買い、移動の車中など隙間時間でつまむのが定番だ。それでも時々、至上の一皿にありつけることもあった。
「静岡の山奥にあるインド系IT企業の社食で食べた南インド流の本格カレーに、新潟の枝豆農家が余り物の豆で握ってくれた枝豆おにぎり。その人たちにとって当たり前でも、決してお金では買えないごはんにありつけた時の喜びは、記憶に残りますね」
石井さんが、ロケにあたって心がけていたことが一つある。
取材を受けてくれる人はよく、自分の仕事やランチについて「こういう場面が撮れますよ」と提案してくれる。だが石井さんは、「あなたの様子をしばらく横で見ているので、僕がすてきだなと思うシーンを拾わせてもらえませんか?」とお願いするのだ。カメラの前で背伸びした姿ではなく、ありのままに迫りたい。何度もロケハンに通って、相手の“素”を観察した。
普通であることへのリスペクトは、石井さんが駆け出し時代から抱き続けてきた思いだ。
「学生からテレビ業界に就職して間もないころ、『漁港に立っている漁師の1日に密着するようなドキュメンタリーが作りたい』と周りに話していたのをよく覚えています。当時はテレビといえば有名人や成功者が出る場所でした。でも、居酒屋でたまたま隣に座ったおっちゃんの人生を感じられるような番組があってもいいんじゃないかって」