「なぜこれだけ努力しても不安が消えないのか?」キャリアアップを実現しても、貯金を増やしても、資格を取っても――それでも将来が不安で仕方がない。そんな悩みを抱える人に、全米ベストセラー『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』が鋭い視点を投げかける。著者のブラッド・スタルバーグは、マッキンゼー出身のウェルビーイング研究の第一人者。本書が指摘するのは、不安を増幅させる私たちの思考パターンだ。本稿ではその核心に迫り、「努力しても将来への不安が消えない人に欠けている視点」を解説する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

努力しても将来への不安が消えない人に欠けている視点
「頑張って転職し、望んでいた仕事に就いたのに、不安が消えない」
「一生懸命お金を貯めても、将来が怖い」
「資格を取ったり、スキルを磨いても、自信が持てない」
こうした悩みを抱えている人は、決して少なくないだろう。
努力を重ねても、将来に対する不安が一向に消えない。ウェルビーイング研究の第一人者であるブラッド・スタルバーグは、その原因を「所有志向」にあると指摘する。
スタルバーグの最新刊『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』では、心理学者エーリッヒ・フロムが提唱した概念を基に、人の生き方を2種類に分けて議論している。
それは、所有志向と存在志向だ。
所有志向の人が不安を感じやすい理由
所有志向とは、持っているもので自分を定義することだ。
所有物、アイデンティティ、仕事は失う可能性があるのだから、所有志向は本質的にもろい。
何かに異常に執着すると、やがてそれに支配されるようになる。
──『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』より
所有志向の人とは、肩書き、地位、収入、財産といった「自分の持ち物」をアイデンティティの中心に置くタイプの人間のことだ。
肩書きは、どんな状況でも通用するものではなく、仕事を失えばアイデンティティは揺らぐ。収入が減れば不安に陥る。
肩書きや収入は他人と比較しやすいため、常に周囲と比べてしまいがちだ。このことも不安を助長する一因となる。
存在志向の人は、内面の変化に意味を見出す
存在志向は、自分の奥深くにある永続的な部分を自分のアイデンティティと重ね合わせる。
永続的な部分とは、コアバリューや、いかなる状況になろうとも主体的に対応する能力のことだ。
存在志向は変動的で、変化に対応する際に有利に働く。
──『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』より
対照的に、存在志向の人は、内面の変化や成長に意味を見出す。アイデンティティの核となるのは、所有物ではなく、自分の行動や価値観だ。
たとえば、「人間関係を大切にする」「新しいことに挑戦する」といった価値観に基づいて生きるため、環境が変わってもアイデンティティが揺らぎにくい。
収入が減ったり、キャリアの転機に直面したりしても、「自分は何を大切にしているのか」「どういう行動を取りたいのか」という指針があれば、不安を感じにくくなる。
また、存在志向の人は、自分の価値を他者の評価ではなく、自分自身の行動や選択によって測るため、他人との比較や競争に振り回されにくい。他者の成功や変化を脅威と感じるのではなく、自分にとって意味のある成長を追求し続けることができる。
もちろん、所有志向を完全に手放すのは現実的ではない。収入やポジションを気にすることが重要となる場面も多いだろう。
しかし、それを自分のアイデンティティの中心に置くのではなく、自分の価値観や行動の結果として捉えることができれば、将来への不安は軽減されるだろう。
※本稿は『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』の内容を一部抜粋し、編集を加えたものです。