2000年から23年にかけての
「手取りの実質賃金」の増加率

日本の「手取りの実質賃金」は、四半世紀にわたって停滞を続けている。マンアワー当たり実質可処分所得(1時間の労働に対して支払われる手取り賃金)は、2000年から23年の間に、わずか0.5%の増加にとどまる。
日本の労働者が豊かになれない要因を、低い労働生産性に求める言説がはびこってきた。だが、日本のマンアワー当たり労働生産性は、2000年から23年の間に16.8%(年率0.7%)改善している。つまり、生産性の改善をほぼ全て、他の要因が相殺してしまったということだ。
労働者が豊かになれなかった真因は、大きい順に、(1)税・社会保険料負担の増加(手取り賃金への打撃は2000年から23年の間に▲7.7%ポイント)、(2)交易条件の悪化(同▲4.5%ポイント)、(3)労働分配率の停滞(同▲2.1%ポイント)である。
税・社会保険料負担の増加は、高齢化に伴い従属人口指数(生産年齢人口が年少人口と老年人口をどれだけ扶養しているかを示す指数)が上昇した結果である。今後も長期的に高齢化の進展が見込まれる中、将来世代の再生産を抑制してしまう現役世代の税・社会保険料負担の抑制は急務だ。
もっとも、これは引退世代の社会保障負担を増加させる。この打撃を緩和する上で、労働所得が一定水準を超えると年金が減額される、在職老齢年金制度の改廃もまた急務といえよう。同様に配偶者控除の改廃も、現役世代の税・社会保険料負担を抑制し、労働供給を増加させる効果が期待される。
交易条件の悪化は、11年の原子力発電所の停止・廃炉に伴うエネルギー自給率の低下や、研究開発費の低迷などを背景とした輸出価格の伸び悩みが原因だ。さらなる悪化を食い止めるために、自給率の向上に向けたエネルギー戦略の推進と研究開発助成政策の再構築が求められる。
労働分配率の停滞は、株主資本主義の進展に伴い、日本経済の実力に比して株主還元への要求が過大だった結果である。健全な賃金交渉の復活により、労働分配率を維持・向上させる必要がある。
(みずほ証券 エクイティ調査部チーフエコノミスト 小林俊介)