米国・ロシアが勝って欧州・ウクライナが負けるとき、日本のポジションは？【佐藤優】2月28日に米ワシントンで行われたトランプ米大統領（中央）とウクライナのゼレンスキー大統領（左）の首脳会談は、決裂に終わった。バンス米副大統領（右）も加わった口論は新聞記者やテレビカメラの前で繰り広げられ、全世界に報じられた　Photo:EPA＝JIJI

トランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談決裂に関して、欧州諸国と日本の対応には、かなり温度差がありました。トランプ氏のペースで停戦交渉が進んで「勝者＝ロシア、仲介者兼準勝者＝米国、敗者＝ウクライナと欧州諸国」となったとき、日本のポジションはどうなるのでしょうか。（作家・元外務省主任分析官　佐藤 優、構成／石井謙一郎）

米・ウ会談決裂への対応
欧州と日本にかなりの温度差

　米ワシントンで2月28日に行われたトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の首脳会談が決裂したのは、周知の通りです。昼食会と共同記者会見はキャンセルされ、予定されていたウクライナのレアアース開発に関する協定の署名もなされませんでした。

　興味深いのは、ホワイトハウスが会談後に以下の文書を公表したことです。

〈トランプ大統領とバンス副大統領は、常に米国国民と、世界の中での米国の立場を尊重する人々のために立ち上がる。そして、米国国民が不当に扱われることは決して許さない。

トランプ大統領「言っておくが、あなたたちにはカードがない。われわれがいればあなたたちにはカードがあるが、われわれがいなければあなたたちにはカードがない」

　ウクライナ人の半数以上（52％）が戦争の早期終結を望んでおり、ウクライナは「平和と引き換えに領土の一部を割譲する用意があるべきだ」と考えていることが、11月のギャラップ世論調査で明らかになった。

　ウクライナで戒厳令が導入されて以来、100万0050人のウクライナ人が徴兵された。2024年10月、ウクライナはさらに16万人を徴兵すると発表し、徴兵されたウクライナ人の総数は116万0050人に達した。ウクライナ軍の平均年齢は43歳である。

「たとえ西側諸国が約束した全ての兵器を提供したとしても、それを使う兵士がいない」と、ウクライナ大統領ヴォロディーミル・ゼレンスキー氏の側近の一人が、米「タイム」誌のサイモン・シュスター氏に語った。（中略）

　ウクライナ軍は「訓練不足で疲弊した兵士たちが無断欠勤している」ため任務放棄が増加しており、さらに、兵士の募集難や「尊敬され、人気のある戦闘指揮官の逮捕」により、軍はさらに苦境に立たされている。

トランプ大統領「第3次世界大戦を賭けているようなものだ」

　ゼレンスキー氏自身も、ウクライナの状況が第3次世界大戦につながる可能性を認めている。米国の支援がなければ、ウクライナは敗北するだろう。

「第3次世界大戦はウクライナで始まり、イスラエルで続き、そこからアジアへと広がり、どこかで爆発するだろう」（以下略）〉（ホワイトハウスのホームページ〈HP〉より筆者訳）

　外交の世界で、友好国の首脳同士が激しく言い争うことは、まれにあります。そんな場合でも、諍（いさか）いの内容を公式文書で発表することは差し控えるもの。文章で残せば事態が固定化し、その後の選択の余地が狭まってしまうからです。

　今回、ホワイトハウスがHPにこの文章を掲載したのは、「ゼレンスキー氏に絶対的な非がある」とする米国政府の立場を、国際社会に周知徹底するためです。

　日本の報道はほぼ全てゼレンスキー氏に同情的ですが、これは素人の見方です。

　ゼレンスキー氏が主張するのは戦争継続の道で、トランプ氏が主張するのは平和。外交交渉によってこの戦争を終結させようとしているトランプ氏の方が、立ち位置として正しいのです。

　両者の決裂に関して、欧州諸国と日本の対応には、かなり温度差がありました。