割高な米国株を売って
J-REITを買い増す
これを実際の過去データで検証したのが図表3である。図表の横軸は投資リターンの変動性として定義されるリスクだ(当該資産の変動性を年率換算した標準偏差で示してある)。要するに図上で右に行くほど当該資産の変動性は高く、左に行くほど変動性は低い。
各点の分布は、過去10年間、毎月末に該当する指数に連動するファンド(投資信託など)に定額積立投資した場合のリスクと年率リターンを示している。
使用しているデータは米国の投資情報会社モーニングスター社が提供する株式、並びにREIT指数であるが、各指数はS&P500、TOPIX、東証REIT指数と同じ手法で計算されているので両者はほぼ同じと考えて頂きたい。(リスク・リターンの計算は、筆者が開発企画し、NPO法人FIWAのサイトで公開されている「FIWAインディくん」で行った。)
図上の(1)が東証REIT指数(データはMorningstar Japan REIT)に連動するインデックスファンド100%の場合の過去10年(2025年1月末時点)のリスクと年率リターンで、図上の左下、つまり低リスク・低リターン(年率2.8%)に位置している。
(2)はTOPIX(Morningstar Japan)に連動するインデックスファンド100%の場合であり、年率リターンは11.6%と高い。
水色の分布は10%ずつ東証REIT指数とTOPIXの比率を変えた合成ファンドのリスクとリターンであり、左側に凸の形をしていることにご注目頂きたい。
例えば東証REIT指数50%、TOPIX50%の比率で投資すれば、リターンは両者の中間的な水準(年率7.7%)となる一方で、リスクは双方100%いずれの場合よりも低くなることを意味している。これが変動の異なる資産を複数保有することによるリスク低減効果であり、この分布曲線は金融・投資の世界では「有効フロンティア」と呼ばれている。
東証REIT指数の過去10年の定額積立投資の年率リターンは過去3年間の価格の低下で現時点では2.8%と低いが、筆者の目論見が正しければ、今後このリターンは5%、6%と上昇するだろう。
一方でTOPIXの過去10年の年率リターンは11.6%とかなり高く、例えば今後10年間は今の水準より低下するかもしれない。合成ファンドのリターンは両者の中間的な水準になるわけだが、リスク低減効果が持続し、筆者の目論見通りなら相対的に低いリスクで高いリターンを享受できることになる。
興味深いことに、J-REITをポートフォリオに加えることによるリスク低減効果は、米国株価指数との間でも見られる。
図上の(3)の点は米国株価指数(S&P500、Morningstar US Large Cap)連動ファンド100%の場合(円資金で投資)のリスク・リターンの分布であり、リスクも高いが過去10年間の年率リターンは21.7%と非常に高い。これはドルベースの米株価の上昇に近年のドル高・円安の為替相場変動が重なった結果だ。
これと東証REIT指数連動ファンドを加えた合成ファンドのリスク・リターンを示したのが、濃い青色の分布だ。やはり左方向に穏やかに凸状の形状をしている。
その結果、例えば東証REIT指数70%、米国株価指数30%の合成ポートフォリオは、リターンは12.8%で両者の平均値12.25%より高く、かつリスクは東証REIT指数100%の場合よりも低い。
一方、米国株価指数と世界REIT指数(除く日本)の間にも、弱いながらリスク分散効果があり、若干左に凸の有効フロンティア曲線(オレンジ色の分布)が出ている。しかしそのリスク低減効果は極めて弱く、東証REIT指数とのリスク分散効果の方がはるかに大きいことがわかるだろう。
もちろん図表3に示したリスク・リターンの分布は過去10年間の結果であり、次の10年間同じであることはない。しかしながら、様々な資産クラスのリターンは10年平均程度でも大きく変わるのだが、リスクや資産クラス相互の関係性は、一度変わると中長期的に持続する傾向がある。
私の目論見が正しければ、過去10年の円ベースの米国株価指数のリターンは高過ぎであり、次の10年間は低下すると思うが、J-REITの保有を加えることで、リスクを抑制しながらポートフォリオ全体のリターンを高めに維持できるだろう。もちろん投資の判断と選択は読者の自己責任でお願いしたい。
(竹中正治 龍谷大学経済学部教授)