
米国との交渉などで国益を守るためには、霞が関の中央省庁において、優秀な人材を確保する必要がある。特集『公務員の危機』の#2では、国内外の行政組織、官僚制、公共政策に精通している吉牟田剛・大阪大学招聘教授に、国家公務員の人材確保のためのポイントについて寄稿してもらった。
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意味を見いだせない業務は、若手にやらせないなど
官僚のやる気を引き出す工夫が不可欠だ
前回の寄稿(特集『公務員970人が明かす“危機”の真相』の#13『政治家による公務員へのパワハラを防ぐ「英国ルール」の威力、ハラスメントの有無の調査が肝』)では、政治のリーダーシップが十全に発揮されるためには、それを支える官僚集団が必要であり、例えば環太平洋経済連携協定(TPP)に関しては、内閣官房に霞が関の省庁からえりすぐりの人材が集められ、閣僚レベル交渉などをサポートし、成功を収めたことを紹介した。

そして、内閣官房の各部局のおさは、特別職という外部からの人材を活用しやすい職だが、実際には行政の制度・手続き、国会との関係についての経験が必要なことから、省庁出身者が就くことが多いことを説明した。議院内閣制を採用するわが国では、重要政策は法律、予算などで決まるため、タイトな政治カレンダーに沿って、与野党との調整を行うことが不可欠であり、優秀な職業公務員の集団を常に維持する必要がある。そして、以下に説明するように、霞が関の持続可能性のためには、外部人材の増加や流動性の増加も必要だが、優秀な人材を確保、維持することが一丁目一番地となる。
今年の1月には米国で第2次トランプ政権が発足し、その関税などを巡る方針に世界各国が対応に苦慮している。幸い、わが国は比較的早期に従来の日米関係の維持を確認するなど、円滑に対応していると各国から注目されている。
これは、第1次トランプ政権時に友情関係を築いた安倍晋三総理のレガシーと、当時交渉に関わった閣僚が現在の内閣を支援していることに加え、当時の事情を知る外務、経済産業、財務、防衛など各省の職業官僚のサポート力が大きいのは言うまでもない。彼らは、第2次トランプ政権が発足する前から、新政権の政策(選挙前の公約やトランプ候補を応援するシンクタンク提言が数多くあるため、ある程度の想定はできる)、予想される新政権の主要人物などについて、総理と勉強会を行っていた。
一般に、内閣にとっての重要課題に関するタスクフォースは内閣官房に設置され、関係する省庁の中から、当該事項について出身省庁で積み重ねた知識、経験を備える専門人材が派遣される。彼らは、フィージビリティや実施段階のことをも視野に入れて戦略を策定する必要があり、このためには出身省庁等との連絡、調整、交渉などについての知識が必要となる。従って、出身組織の任務全体についての知識を備えているジェネラリストでもある。
さらに、現実問題として、政治家には約2年に1度国政選挙があり、その時々の有権者の意向に対応する必要がある。これに対し、公務員は、長期雇用が保証されており、本来、長期的な国の繁栄を考えて政策立案に参画できる立場である。政治家による現在の政策決定をサポートするだけでなく、財政、外交、防衛、経済、教育、環境など、次の世代につなぐ観点から長期軸で物事を捉える役目の中心を担うのが、官僚集団となる。
このような人材は、一朝一夕には育成できない。各省庁において、採用段階で、高い志と能力を有する者を幹部候補として採用し、採用省庁の本省(企画)を中心に地方支分部局(実施)、他省庁、国際機関、関係団体などに勤務させ、加えて、政治との接点(内閣官房、秘書官事務取扱)などを経験させることとなる。このようにして、省庁の幹部は各省庁で育成される。
また、省庁の枠組みでは対応できないような課題については内閣官房に設置された組織に派遣され、勤務し、政府全体としての視点を涵養することとなる。
中央省庁等改革以降、幾つもの行政機関が新設されている。これらは関係機関からの移籍、出向が大半を占めるが、コア人材を育成するため、いずれも独自に幹部候補職員の採用が行われている。新設が予定されている防災庁においても、その母体となる内閣府防災担当部局の評価は高いが、国土交通省などからの出向職員が多いため、組織としての専門性、記憶力、求心力を一層確保するべく、プロパー職員を養成し、庁を設置するものである。