緑内障では善玉コレステロールが「悪玉」になる?40万人の追跡調査よりPhoto:PIXTA

 HDL-コレステロール(HDL-C)は動脈硬化を予防する「善玉」と呼ばれるが、眼の健康に関してはそうとも言い切れないらしい。

 緑内障は日本人の失明要因第1位の眼疾患だ。初期の自覚症状がないため、視野の異常が生じてから発症に気付く例も少なくない。日本緑内障学会の調査によると、40代以上の20人に1人は緑内障持ちだが、その9割は未治療であることも判明している。

 発症の危険因子は、年齢のほか、眼の中を循環している液体(房水)の圧力である「眼圧」の上昇、家族歴、2型糖尿病、眼の血液循環が悪くなるほどの低血圧症などが知られている。しかし、脂質異常症(高コレステロール血症)との関連はあいまいだった。

 そこで中国の研究グループは脂質と緑内障との関連を調べるために、UKバイオバンク(英国の健康情報データベース)のデータから、緑内障患者(疑いを含む)を除く、40万0229人を抽出して追跡調査を行った。

 平均14年間の追跡期間中、緑内障を発症したのは6868人。非発症者と比較すると、より高齢で喫煙率が高く、非白人種の可能性が高かった。

 脂質との関連ではHDL-Cが高いグループで緑内障発症リスクが有意に高く、HDL-Cの上昇とともに直線的に発症リスクが上がることも示された。

 一方、なにかと「悪玉」扱いされるLDL-コレステロールや中性脂肪(TG)および総コレステロールは、数値の上昇とともに、それぞれ緑内障リスクを低下させた。

 また、年齢と性別で解析すると、55歳以上の男性では、HDL-C高値とTG低値が緑内障の発症リスクを上昇させることも判明した。研究者は「眼の疾患については、善玉/悪玉の常識を見直す必要がある」としている。

 なぜ「善玉」が悪さをするかは不明だが、HDL-C高値は、もう一つの失明リスクである加齢黄斑変性との関連も疑われている。

 50歳を過ぎたら、たとえ脂質検査の優等生でも「眼底検査」と「眼圧検査」を怠ってはいけない。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)