日本人の中途失明原因の1位は緑内障だ。視野の一部が徐々に欠ける病気で、40歳以上の5%、60歳以上の1割が罹患していると推測される。
眼球の形を保つために必要な「眼圧」が何らかの理由で上昇し、視神経が障害されることで生じ、いったん、視野が欠け始めると元に戻すことはできない。早期発見で進行を抑えることが重要なのだ。
中国・四川大学西中国病院の研究グループは、緑内障の発症と睡眠の質との関係に注目。
英国の大規模ヘルスケアデータベースである「UKバイオバンク」を利用し、睡眠時間の長短、クロノタイプ(朝型・夜型)および、いびきや日中の眠気など睡眠の質を表す指標と、緑内障との関連を検討した。
対象の40万9053人(平均年齢57.0歳、女性55%)のデータをおよそ10年間追跡したところ、この間に8690人が新たに緑内障を発症。年齢と性別、喫煙や生活習慣病など、睡眠以外のリスクの影響を調整して解析した結果、睡眠の質が緑内障の発症と有意に関連することが判明した。
具体的には、睡眠時間が7時間未満、あるいは9時間以上の人は、発症リスクが健康的な睡眠時間(7~9時間未満)の人より8%高く、不眠症の症状では12%リスクが増加した。さらに、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を暗示する「いびき」では4%リスクが増加、「日中の眠気」では、20%のリスク増が示されている。
この結果は、日本の緑内障患者の7割を占める「正常眼圧緑内障」でも変わらなかった。
研究者は「横になっているときは眼圧が上がりやすい。また、不眠症に伴うストレスホルモンの産生異常や、SASで生じる低酸素状態が視神経にダメージを与えるのでは」と考察している。
本研究のみでは因果関係の証明にはならないが、世界トップの「睡眠不足大国」の住民としては気にかかる。
睡眠不足を自覚している方は、数年ごとに眼科を受診し、眼底検査と視野(視覚ではない)検査を受けてみよう。早期診断で中途失明を回避したい。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)