
ドナルド・トランプ米大統領は、数十年にわたって続いてきた地政学的秩序に前例のない挑戦を仕掛けた。その犠牲になりそうなものの一つが、米ドルだ。
わずか数週間のうちに、関税の大幅引き上げと貿易を巡る不確実性により米国の経済成長が鈍化する、との懸念が高まった。同時に、米外交政策の急転換を受けて欧州経済に対する楽観論が強まった。その結果、ドルはユーロに対して急落し、欧州株は過去最高値を更新、ドイツ国債利回りは「ベルリンの壁崩壊」直後以来の大幅上昇となった。
主要16通貨のバスケットに対するドルの価値を示すウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)ドル指数は過去9週のうち7週で下落し、昨年11月5日の米大統領選以降の上昇分をほぼ帳消しにした。
こうした金融市場の混乱が続けば、世界の投資フローから欧米間の観光客の流れに至るまで、あらゆる面に影響を及ぼす可能性がある。
米国の政治指導者は何世代にもわたり、ドルの世界金融システムにおける優位性を概して受け入れてきた。政府の借り入れコストを抑えられるなどのメリットがあったからだ。米国の国防支出はドルの優位性向上に一役買った。国防費は財政赤字を押し上げ、その大部分を外国人投資家が賄ってきた。外国人投資家は米国債の約3分の1を保有している。
しかし今、トランプ氏とその顧問の一部は、同盟国の防衛に費やすリソースを減らしたいと明言している。また、米国内の製造業を後押しするため、ドル安を望む考えも示している。ドル安になれば、外国の買い手にとって米国製品が割安になるためだ。