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伊藤忠商事が日立建機への出資比率を33.4%へ引き上げ、経営の重要事項を左右する「拒否権」を掌握した。2027年の「ランドクロス」への商号変更を前に約1800億円という巨額の追加投資を断行。しかし市場では、PERや利回りの観点から「高値つかみ」を懸念する声も根強い。連載『クローズアップ商社』の本稿で、生活産業に強みを持つ伊藤忠が、あえて機械分野への深入りを急ぐ「執念」の正体を追う。(ダイヤモンド編集部 金山隆一)
1800億円を投じる「薄利投資」の勝算
高値掴み批判を切り捨てる伊藤忠の論理
2月19日、伊藤忠商事は日立建機への出資比率を33.4%まで引き上げると発表した。2022年の資本参画から約4年。ついに特別決議を阻止できる「拒否権ライン」を掌握した。27年4月に商号を「ランドクロス(LANDCROS)」へ変更する建機大手に対し、ブランド刷新を前に巨額の追加投資を断行した。
表向きは「パートナーシップの深化」を掲げるが、その内実は野心的だ。単なる持ち分利益の積み増しというより、製造業を商社のプラットフォームに取り込む「伊藤忠モデル」の完成を急ぐ焦りも透けて見える。
今回の追加取得は約13%分、投資額は約1800億円に上る見通しだ。しかし、この投資に対して市場の評価は冷ややかだ。「日立製作所が売り出し、4500円前後で買えた昨年11月の局面をなぜ見送ったのか」「足元約6500円の高値で買うのは、JIP(日本産業パートナーズ)との間に義務的な買い取り契約があるからではないか」という“高値つかみ”への疑念だ。
これに対し、大手証券の商社アナリストは「株価の上下は後講釈にすぎない」と一蹴する。「JIPが放出するタイミングで先買い権を行使し、3分の1超を確実に確保することが当初からのゴール。価格の多寡よりも、経営の主導権を盤石にすることに本質がある」という理屈だ。伊藤忠側もこうした市場の懸念を鋭く意識している。本誌の取材に同社は、今回の取得がJIPとの契約履行による「義務」ではなく、あくまで自主的な投資判断であることを強調。その上で「短期的な株価水準との単純比較は本質を捉えていない」と断じる。
同社には成長投資を失敗させないための「四つの教訓」がある。
かつて資源開発等で巨額の減損を繰り返した過去を教訓に、(1)高値つかみをしない、(2)取り込み利益狙いだけで投資しない、(3)特定客先・パートナーへの依存や過信を避ける、(4)知見のない分野に投資しない――という規律を徹底。今回も、将来キャッシュフローやリスクプレミアムを精査した上での「規律ある合意価格」だという主張だ。
昨年11月の安値圏で動かなかった点も「協定上の制約ではなく、日立建機側の意向も含めた総合的かつ慎重な判断の結果」としており、今回のタイミングこそが協業の進展に照らして「最も合理的」だったと結論付けている。
とはいえ数字で見れば苦しい。日立建機のPER(株価収益率)は約18倍。伊藤忠自身のPER(約17倍)を上回っており、利回りに換算すれば5%程度。米国債の金利と比較してさえ「お買い得」とは言い難い水準だ。
1800億円を投じて得られる持ち分利益は年間100億円程度とみられ、ROE(自己資本利益率)の押し下げ要因にもなりかねない。 数字上の不利を承知で、なお伊藤忠がこのタイミングに固執した「真の狙い」とは何か。次ページで探っていく。







