AIで出遅れたアップル、株価が払う代償Photo:Bloomberg/gettyimages

 米 アップル は今まさに、スティーブ・ジョブズ氏のカリスマ性やプレゼンテーション力について言われた「現実歪曲(わいきょく)空間」を必要としているのかもしれない。

 時価総額が世界首位のアップルにとって、いくつかの現実がしばらく前から明らかになっている。スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」は買い替え需要の鈍化で2024年下半期の売上高が前年同期比1.6%増にとどまった。全体の売上高の半分以上を占める同事業が低調であるにもかかわらず、同社の株価は好調だ。過去12カ月間の株価上昇率はテック大手の大半をアウトパフォームし、バリュエーションは最近までその全社を上回っていた。

 だが先週、株価がつまずいた。同社が音声アシスタント「Siri(シリ)」の人工知能(AI)機能の大幅刷新を延期すると報じられたことが響いた。この「よりパーソナライズされたSiri」は、端末上のアプリをまたいでデータにアクセスし、真の「AI iPhone」を実現するカギになるとされる。同社が昨年の世界開発者会議(WWDC)ですでに一部を予告していたこともあり、今年6月のWWDCで発表する最新版モバイル端末向け基本ソフト(OS)「iOS」に搭載されるものと思われていた。

 だがアップルは7日、「同機能の提供には想定より時間がかかる」と述べ、導入は来年になるとの見通しを示した。AI機能を強化したSiriは26年前半まで登場しないかもしれない。

 この発表を受け、今秋発売される新型iPhoneのAI機能が大きく向上するとの期待が後退した。モルガン・スタンレーのアナリスト、エリック・ウッドリング氏は先週のリポートで、「より高度なSiriの登場が遅れるということは、アップルの2026年9月期のiPhone買い替え率を押し上げる要因が少なくなることを意味する」と指摘した。そしてついに株価が失速した。ファクトセットのデータによると、アップル株は先週11%近く下落し、週間の下げ幅としては22年後半以来の大きさとなった。先週は関税を引き金として全般的に大きく売られたが、アップルは他の大型テック株より下げがきつかった。