以前は転職して損はなかったが、今はそうではない。
最新の連邦政府のデータによると、同じ仕事にとどまった人と転職した人の賃金の差がこの10年で最も小さくなった。
1月と2月の賃金上昇率は、同じ仕事にとどまった人が約4.6%、転職者はそれをわずかに上回る4.8%だった。転職者の賃金上昇率が平均7.7%、非転職者が5.5%だった2023年の初め以降、その差は大幅に縮小している。
「米国がリセッション(景気後退)入りしていないことは明らかだが、以前ほど状況はよくない」。セントルイス・ワシントン大学のヨンソク・シン経済学教授はこう話す。「人々は同じ仕事にとどまることで対応している」
キース・シムズさんはインディアナポリスで人材あっせん会社インテグリティ・リソース・マネジメントを経営し、パナソニックなど大手企業のソフトウエア実装に5~40人のチームをあっせんしている。最近の求人の多くは提示される賃金が安い。
「大抵、賃金は予想から乖離(かいり)している」とシムズさんは言う。
年間約150万~600万円少ない提示
少し前まで労働者が転職して大幅昇給を容易に手に入れていたテクノロジー業界でさえ、今の仕事にとどまる人が増えている。
テクノロジー業界が大幅昇給をけん引したコロナ禍に賃金を交渉した労働者、特に高成長のハイテク企業で賃金交渉を経験した人は、今以上の賃金で新たな仕事は見つかりそうにない。
「こうした人たちにとっては、新しい仕事を探す誘因はほとんどない」。給与データを提供するプラットフォーム、レベルズ.fyiの共同創業者、ズハイヤ・ムーサ氏はこう指摘する。

Photo:Bloomberg/gettyimages