
医療費が高額になっても、1カ月に患者が支払う医療費の自己負担分に上限を設けることで、家計に過度な負担がかからないように配慮した制度「高額療養費」。この自己負担限度額の引き上げが2025年8月に予定されていたが、見送られることになった。『医療費の裏ワザと落とし穴』294回では、政府の方針転換の経緯を追って、日本の医療費について考える。(フリーライター 早川幸子)
患者団体の粘り強い訴えで
引き上げが見直された
2025年8月に予定されていた高額療養費の引き上げが凍結されることになった。
3月4日の衆議院本会議で新年度予算案が可決され、いったん高額療養費の引き上げが決まった後の異例の見直しだった。がんや難病の患者団体の粘り強い訴えが、この国で暮らす全ての患者の負担増を押しとどめてくれたのだ。
だが、自己負担限度額の引き上げは完全になくなったわけではなく、現状では一時的に見送られたに過ぎない。この秋までに新たな方針を決定することになっており、今後の展開しだいでは再び引き上げが現実のものとなる可能性もある。
制度改正の経緯を振り返りつつ、今回、国が提示した高額療養費の見直し案の問題点を改めて考えてみたい。
高額療養費は、手術や化学治療などを受けて医療費が高額になっても、患者が支払う自己負担分に上限を設けることで、家計に過度な負担がかからないように配慮した制度だ。
医療費が一定額までは通常通りに、年齢や所得に応じた自己負担割合(1~3割)を支払うが、その上限を超えた部分の医療費については負担が軽減される。
たとえ医療費が500万円、1000万円と高くなっていっても、それに比例して患者の負担も際限なく増えていくという心配はない。患者の負担は、所得に応じた限度額の範囲内に抑えられるようになっている。この制度があるおかげで、日本では貧富の差に関係なく必要な医療が受けることができる。
ところが、今回の改正案では、25年8月~27年8月にかけて段階的に所得区分の細分化と自己負担限度額の引き上げを行うことで、患者の負担を大幅に引き上げる内容となっていた。