公的医療保険制度の根底にある
「相扶共済」の精神に立ち返る
高額療養費は医療費が高額になった場合の制度なので、これを利用しているのは、そもそも高い自己負担をしている人たちだ。そこに、さらなる負担を上乗せしようするのは、公的医療保険の根底にある相扶共済の理念を無視しているように思う。
現在、高額療養費の引き上げに代わる医療費削減の手段として挙がっているのは、「OTC類似薬の保険適用を外す」というものだ。町のドラッグストアなどで販売されているOTC医薬品と同成分の医薬品は、公的医療保険の適用から外して全額自己負担にするという見直しだが、こちらは受診控えが増加することが懸念される。
この他にも、現在は年齢や所得に応じて1~3割に分かれている自己負担割合を、一律に3割に揃えて財源を捻出するといった意見もある。また、過去には「医療機関を受診するごとに患者から一律に500円程度の定額負担を求める」「一定額以下の医療費については免責にする」などの医療費削減案もあった。さらには、医療費にあてる財源として消費税増税を求める声もある。
いずれにしても、その当事者となった人は負担が増え、痛みを感じることになる。だが、一部の人にだけ、その痛みが大きく偏るような制度設計は間違っている。
1938(昭和13)年7月に施行された国民健康保険法(旧法)の第1条には、国民健康保険は「相扶共済の精神に則り疾病、負傷、分娩又は死亡に関し保険給付を為すを目的とする」と記され、被保険者が助け合い、力を合わせて運営していることが謳われている。
1958(昭和33)年12月に施行された新法で、この「相扶共済」のくだりは削除されてしまったことは非常に残念だが、もともと公的医療保険は分かち合いの精神のもとに生まれたものであることを知ってもらいたいと思う。
これから先も、この国で暮らす人々が貧富の差に関係なく、必要な医療にかかれる社会を維持していくためには、今一度、この「相扶共済」の精神に立ち返った制度設計をしていく必要があるのではないだろうか。