だが、27年8月以降は、医療費が35万円かかっても高額療養費は適用されないので、患者は医療費の3割である10万5000円を毎月支払い続けなければならない。1年間に支払う自己負担額の合計は126万円。患者の負担は倍増する。

 がんや難病などで継続的な治療が必要な患者、今は症状が落ち着いていても、いつ再発するか分からない患者にとって、今回の高額療養費の改正案は絶望的な内容だったろう。

「高額療養費引き上げ反対」
緊急署名に13万5287筆の賛同

 こうした制度改正に危機感を抱いた「全国がん患者団体連合会(全がん連)」は、自己負担限度額の引き上げの軽減、影響緩和を求める「高額療養費制度における負担上限額引き上げの検討に関する要望書」を24年12月24日付けで厚生労働省に提出。

 さらに、同団体は高額療養費に関するアンケートを実施し、患者の声を拾い集めた。25年1月に発表された「高額療養費の負担上限額引き上げ反対に関するアンケート 取りまとめ結果(第1版)~3,623人の声~」には、次のような悲痛な声が寄せられている。

「高額療養費の負担上限額の引き上げは患者の命を左右する問題。治療を諦めたり、お金の問題で治療を先延ばしにして重症化する事態が増えたら、これは人災」

「今回の負担額引き上げによって治療を諦める労働者世代が増えると思う」

「小さな子どもがおり、この子を遺して死ねません。高額療養費を使っていますが、支払いが苦しいです。……(中略)……子どものために少しでも長く生きたい。毎月さらに多くの医療費を支払うことはできません。死ぬことを受け入れ、子どもの将来のためにお金を少しでも残す方がいいのか追い詰められています」

 1月23日の厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会では、見直しに伴う給付抑制額が5330億円と試算されたが、そのうち2270億円は受診控えによるものであることが明らかになった。これでは、患者に医療を受けさせないための制度改正と言われても仕方がない。

 高額療養費の自己負担上限額の引き上げは大きな批判となり、「全がん連」のほか、「日本難病・疾病団体協議会(JPA)」「慢性骨髄」が呼びかけ人となった「高額療養費引き上げ反対」の緊急署名には13万5287筆もの賛同が集まったのだ。

 こうした患者団体の声を受け、2月14日に福岡資麿厚生労働大臣は、長期療養が必要な患者の負担増を見送る考えを表明。多数回該当については、現在の上限額が維持されることになった。

 さらに、2月28日には再び修正が行われ、25年8月の引き上げは行うものの、26年8月以降の引き上げは改めて議論し、多数回該当の基準額についても見直すことが発表された。