
三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第38回は、大学受験における「塾の使い方」について考える。
東大受験生の「W通塾」割合は?
難関大コースに所属する東大志望の小杉麻里は、東大専科コースがリスニング対策を始めたことで不安に襲われる。小杉が「自分もはやくリスニング対策をした方がいいのでは」と考えていると聞き、東大専科を率いる桜木建二は「浮気性の受験生は落ちる」という格言を発した。
『ドラゴン桜2』では、小杉は塾に通うことなく自分で勉強を進める生徒として描かれている。確かに私の周りにも、塾に通わず東大などの難関大学に進学した友人は少数ながらいる。とはいえ、大事なのはどの塾に通うかではなく、「どう通うか」だ。
ここで、首都圏における東大志望受験生の通塾状況について概観してみよう。
東京大学を志望する受験生の多くは、大手塾の東大専門コースに通う。教科ごとに通う塾を分けている受験生も多いため、「通塾者数」の合計は受験生の総数を上回る。
試しに東大合格者数ランキング上位の駿台・河合塾グループ・Z会・東進ハイスクール・鉄緑会の東大合格者数を調べてみよう。2024年のこの5塾の合計合格者数は5228人だ。同年の東大合格者数(外国人入学者などを含まない)は3084人であったことを踏まえると、1人当たり約1.7カ所の塾に通っていたことになる。実際には5塾以外に通っていた人や、塾なしで合格した人もいるだろうから、大手の兼塾率は極めて高いと言える。
一部の塾では、模試の上位成績者を特待生として優遇することで、入塾者数と合格者数を増やしている。私が通っていたところでは、模試でA判定をとると、最大で1回3万円ほどかかる授業が約1500円で受けられるシステムがあった。添削付きだともう少し高くなるが、それでも1教科で5000円を上回ることはない。
当然、その分の授業料は、特待生以外の生徒が負担していることになる。私の友人は文理選択に迷っていた時、塾の担当者から「とりあえずどっちの授業もとっておきましょう」と言われるがまま、150万円近く払ったという。授業料の多寡に関わらず、むやみやたらに授業をとるようでは「塾に使われる」状態になってしまう。
わかりやすい授業は「いい授業」?

他にも面白いのは、複数の大手塾で指導経験があったり、現在進行形で兼任していたりする塾講師が相当数いることだ。「〇〇塾では講師同士のねたみがひどいから、こっちに移籍してきたんだよ」という愚痴を聞いたこともある。学校の先生と違い、指導力や人気に収入が左右される塾講師ならではの事情なのかもしれない。
複数の塾での指導経験を持つ先生は、各塾を比較した「学習」の本質を教えてくれた。「△△塾の授業アンケートに『××先生の授業はわかりやすかったですか?』というのがあってさ。でも、わかりやすい授業っていい授業なんだろうか?」。
「聞くだけで理解できる」という姿勢だと、いつまでたっても「受け身」の状態から抜け出せない。そうではなく、「疑問の立て方」と「疑問への向き合い方」を身につけるのが勉強なのだ、ということだろう。
私はこのマインドが、「塾に使われる」のではなく「塾を使う」姿勢の鍵なのだと思う。「合格するには何が必要なのだろう?」という考えから逆算していき、「この教科は自分でやったほうが効率がいい」や「この教科は塾に通ったほうがいい」といった分類が生まれる。さらに「この教科を学ぶためにはどの塾・先生がいいのだろうか」という思考にいたる。
「自分に合わない、必要ないなと思う授業を切り捨てていったら、結果的に塾に通わなくなったり、必要最小限の授業しか出なくなった」という声をよく聞く。自分に必要なものを逆算して、過不足ないインプットを得る。これは受験が終わった後にも通じる教訓だろう。

