レシピ多すぎ、コスパ悪すぎ、献立ムズすぎ、皿洗い嫌すぎ……! 初心者だろうと、日々料理を作る人だろうと、平等に立ちはだかる自炊の壁。時間も余裕もないのに、どうすれば自炊を続けられるのか?「料理を勝手に難しくしているのは自分です」と語るのは、料理を体得したミニマリスト・佐々木典士氏と、自炊料理家の山口祐加氏。新刊『自炊の壁』では、初心者がレシピなしで料理できるようになるステップ100を完全網羅している。「気持ちが楽になった」「自分のための本だ!!」と話題が広がる本書から、内容の一部を紹介する。

【料理研究家が教える】料理が上達したかったら、真っ先にやめるべき意外な習慣とは?Photo: Adobe Stock

「レシピ」で思考停止にならない

佐々木典士(以下、佐々木)最低限の料理の法則に基づいて、自由に料理を作ると楽しい。楽しいから続けられる。でも実際に手を動かしてしばらく料理をすると、レシピが欲しくなるときもありました。どうやって作るのか、自分の想像が全然追いつかない料理も作ってみたくなったり。

初めての料理を作るときにレシピを参考にするのは悪くないし、レシピは単なる悪者でもない。自分の大切な型になったきんぴらや、お浸しという料理法もどこかの誰かが作ったレシピのはずで。だから、法則を基にレシピを見ずに自由に作ることと、レシピがうまく共存できる方法も探りたいと思います。

山口祐加(以下、山口)レシピのいちばん大きな弱点を挙げるとすると、作り手を考えなくさせることだと思うんです。

佐々木 逆に言うと、レシピのコピペではなく、少しでも自分の頭を使う余地を残しておくといいですよね。レシピを見ること=悪じゃなくて、上達のために良くないのは「何も考えないこと」。

たとえば、ぼくがレシピを見るときに心がけているのは「薄目で見る」ということです。レシピをガン見しながら作らない。レシピからその料理の法則を抽出して、ざっくりとした工程だけ理解して作る。ベーコンを入れるのは旨味を足したいからだなとか、しょうがを入れるのは香り付けだろうなとか、レシピに書き込まれていない料理の法則も読み取っていく。

山口 酒が入っているのは臭み取りだろうなとか、にんにくを途中で取り出すのは、このままだと焦げるからだなとか。そういう想像ができるようになると、レシピも楽しいものになりますね。

佐々木 レシピを見ながら作るんじゃなく、事前に理解したぼんやりしたイメージを基に料理を再構成するように作っていく。調味料も正確な分量じゃなく、確かしょうゆとみりんと酒が入っていたな、ぐらいのざっくりとしたイメージで。作った後に味がイマイチなら、改めてレシピを開いて答え合わせしてもいいし。

山口 その勇気がなかなか出ないんですよね。ちゃんと見れば失敗しないから。でもずっとその気持ちでレシピを見続けていると一生自信がつかないとも思います。

レシピとうまく付き合う方法

佐々木 レシピの工程は見ず、完成写真だけを見て、どんな調理法や調味料が使われているだろうかと、頭の中だけで料理をしてみるのもよくやっています。

山口 レシピ本や料理の専門誌だけでなく、新聞とかチラシの隅とか、レシピは至るところにあるから、どこでもできるクイズみたいで楽しいですよね。音楽を聞いたときに、何の楽器が使われているのか考えるのと同じで、構成要素を分解してみるみたいな。

佐々木 レシピは端的に、中級者以上になったらすごく役立つものになるとも思うんです。文法書だけ勉強しても英語は話せるようにならないけれど、話す練習をした後に、文法書を見ることは自分のあいまいな知識を確かめるのにも役立ちますよね。ぼくも適当に作りすぎて味がブレブレになったら、レシピに立ち戻りたくなることもあるし(笑)。

料理の法則からボトムアップで料理を作ること、レシピを参考にすることがうまくシナジーできると強いだろうなと思います。

(本稿は、書籍『自炊の壁』を一部抜粋・編集したものです。本書では、料理のハードルを乗り越える100の解決策を紹介しています)

佐々木典士(ささき・ふみお)
作家/編集者
1979年生まれ。香川県出身。雑誌「BOMB!」「STUDIO VOICE」、写真集や書籍の編集者を経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに「Minimal&Ism」を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は26か国語に翻訳され80万部以上のベストセラーに。『ぼくたちは習慣で、できている。』は12か国語へ翻訳、累計20万部突破。両書とも、増補文庫版がちくま文庫より発売。
 
山口祐加(やまぐち・ゆか)
自炊料理家
1992年生まれ。東京都出身。出版社、食のPR会社を経て独立。7歳の頃、共働きで多忙な母から「今晩の料理を作らないと、ご飯がない」と冗談で言われたのを真に受けてうどんを作ったことをきっかけに、自炊の喜びに目覚める。現在は料理初心者に向けた料理教室「自炊レッスン」や執筆業、音声配信などを行う。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(晶文社)、『軽めし 今日はなんだか軽く食べたい気分』(ダイヤモンド社)など。