
「死因は老衰」「命をいただく」「地球にやさしい」……意識しないと聞き流してしまうこれらの表現だが、少し立ち止まって考えると違和感のある表現だということに気づくだろう。作家の下重暁子によれば、「ある言葉が流行っているとき、そこに何が反映されているのかを読み取る『勘』を磨くべき」なのだという。本稿は、下重暁子『怖い日本語』(ワニブックス【PLUS】新書)の一部を抜粋・編集したものです。
「死因が老衰」という報道は
「穏やかな最期」の印象操作?
最近気になっているのは「老衰」という言葉。
著名人が亡くなるとメディアで訃報が伝えらます。
その際に発表される死因で、嫌だなあ、と思うのが「老衰」です。
とにかく私が死んだ場合に訃報が出るなら「老衰」だけはやめてほしい。
比較的最近だと、「老衰」で死亡したとされる著名人で思い出すのは作家の瀬戸内寂聴さん、カメラマンの篠山紀信さんも老衰、アナウンサー時代の師匠でもあった鈴木健二さん、脚本家の山田太一さん、詩人の富岡多恵子さん、作家の大江健三郎さん、作家の永井路子さん、デザイナーの森英恵さんも老衰と発表されていました。
たしかに皆さんご高齢とはいえ、私は知り合いの場合はとくに「老衰」という言葉で終わらせるのは気になって仕方ありません。
「老いて」「衰えて」死ぬなんて、生前に活躍していた人ほど、どうしても「訃報の死因が老衰はないだろう」と思ってしまうのです。
病名をくわしく発表しなくてもいいではないか、という人もいるでしょうし、「老衰」のほうが、「穏やかな最期」という印象があっていいのではないか、と感じる人もいるとは思います。
けれど私は嫌です。「がん」だろうが、「喉にお餅をつまらせて窒息死」だろうが、「飲み屋の階段で転んで脳挫傷」だろうが……。それが老化で体が衰えていたからだとしても、「老衰」はやめてください!
訃報での死因が「老衰」でも
本当は病名があるケースもある
実際の病名は肝臓がんでも、訃報には「心不全」となっていることがある、ということは知っていましたが、少し調べてみました。
通常、新聞や通信社の「訃報」に書かれる死因は、死亡診断書に書いてある死因、または遺族が公表したものを使うそうです。
「心不全」というのは「病名」ではなく、亡くなったときの状況、つまり「最終的に心臓が止まりました」というもので、「呼吸不全」も「多臓器不全」も病名ではありません。
ついでに、厚生労働省の統計を見てみると、日本人の死亡者数約157万人の死因、1位は悪性新生物(がん)で24.6%、2位は心疾患で14.8%、そして3位が老衰11.4%でした。
ちなみに、あとは脳血管疾患、肺炎、誤嚥(ごえん)性肺炎、不慮の事故、腎不全、アルツハイマーがつづいていました(2022年の人口動態統計※死因は、役所に提出された「死亡診断書」に死因として記載されたもの)。
「老衰」は2018年に初めて「脳血管疾患」をぬいて3位になっており、医療の進歩にともなって、さらに増えるだろうと言われています。