【寄稿】ウクライナの対トランプ戦略Photo:Anadolu/gettyimages

【キーウ】ウクライナは2022年のロシアによる侵攻開始以来、激動の政治情勢を切り抜けてきた。ウクライナの戦略は、直接交渉や軍事攻撃、ますます複雑化する外交の裏ルートの間で変化してきた。

 バイデン前政権下の米国は、「(ウクライナが)必要とする限り」同国を支援すると約束し、北大西洋条約機構(NATO)加盟国からの軍事援助・支援のおかげでウクライナは持ちこたえられるように思われた。しかし、2024年の米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利したことで、ウクライナ当局者らは彼の次の措置を推測するようになった。バイデン前政権から受けた支援が新大統領の下では継続されないかもしれないという危険な状況に順応する必要があったのだ。

 当初、ウクライナの外交官はトランプ氏になかなか適応できなかった。同氏の外交政策はウクライナの願望と食い違っているように見えた。トランプ氏がロシアの侵略行為を巡る複雑な問題に特段の関心を持っておらず、和平合意の実現に全神経を集中させていることをウクライナ政府が理解するまでには、何カ月もかかった。

 このことを理解するのは、ウクライナの多くの人々にとって難しかったが、時間の経過とともに、ウクライナの戦略は進化した。英国とフランスの外交官からの助言を得て、ウクライナ当局者は、ある重要な理解に至った。それは、彼らがトランプ氏の外交に向き合い、協力する姿勢を示して、停戦・和平交渉の際には、ロシアが先に拒否するのを待つ必要があるということだ。このアプローチによってウクライナは、交渉決裂が避けられない場合に非難をかわせるようになる。

 だが、この戦略はトランプ氏次第だ。トランプ氏が自らを和平の仲介者と位置付けるための試みにおいて、今後の道筋として二つの可能性があるが、いずれも単純なものではない。一つ目は、厳しい条件内での迅速な解決を求め、紛争当事国であるロシアとウクライナのいずれかに反対され、計画の失敗をその国のせいにするというものだ。

 二つ目は、双方に譲歩を求めるなど、より長引くことが予想される道筋だ。これには課題がある。米国はロシアに対してある程度の影響力を持っているが、期限切れが間近に迫る新戦略兵器削減条約(新START)についての重要な核問題協議や、イランの核兵器保有を阻止する取り組みには、ロシアの協力が必要だ。ウクライナに圧力をかける方がより簡単だが、特に2026年に中間選挙を控える状況では、裏目に出る可能性が高い。非営利調査団体モア・イン・コモンが3月9日に公表した世論調査結果によれば、米国人の67%、共和党員の65%が、米国は戦争終結までウクライナへの支援供与を続けるべきだと答えた。