役所の案件は
「金払いはいいが、支払いは遅い」
特にまだまだ体力のないスタートアップにとっては、行政と仕事をすることで「事業の安定性」と「信用」が得られるので力強い支援策にもなる。ただ、行政とのビジネスルールは一般企業とは異なる。特に支払い関係だ。民間企業では「月末締め請求、翌月末あるいは翌々月末の支払い」が通例のルールだろう。
これに対して地方自治体から業務を請け負うと、年度始めの4月に業務請負契約をして翌年3月に仕事が終わると、その代金が支払われるのが4月なので丸々1年を要する。成果物の納品時期にもよるが、これが当たり前のこと。「金払いはいいが、支払いが遅い」と言われる所以である。

古見彰里 著
大企業ならいざ知らず、スタートアップにとって複数の社員が1年間稼働しても入金ゼロでは、潤沢な手元資金あるいはベンチャーキャピタルからの出資などがない限り、経営を続けていくことは難しい。せっかくの画期的な技術やビジネスモデルをそんな理由で生かせないのは、双方にとってもサービスを享受する地域住民にとっても不運でしかない。
これを解決するには、例えば両者の間に地元の金融機関が入ってファイナンス機能を担ってもらう、あるいはファクタリングによる資金調達を可能にするなど新たなスキームを設計する必要がある。最大のメリットは、支払い元であるクライアントが自治体なので売掛金の未回収リスクがないということ。行政と民間が対等のパートナーになっていくためにも、この利点を生かした仕組みを早急に検討・実現してもらいたい。
こうした施策をつくる場合、スタートアップ支援ということで産業振興などの部署が担当しがちである。私は自治体へのコンサルティングをしている関係で、スタートアップからもビジネスに関する相談を受けることも多い。既に行政との仕事を始めている企業の経営者は、やはり自治体の縦割り組織には苦労したという。そこで、小さな自治体では「ウェルビーイング課」を新たに組織してもらって窓口を一本化してもらったそうだ。1つの仕事が複数の管轄に分かれていては、スピード感をもって新しい施策を進めることはできない。民間企業と仕事を進める上では、トータルでコーディネートしてくれるような横断的な組織やプロジェクトチームの設置が役所の中に不可欠だと思う。