日本は、戦後、衛生、栄養環境の整備、そして国民皆保険制度の実施、献身的な医療者の姿勢などに支えられ、平均寿命は過去順調に延び、WHOが発表した世界保健統計2023年版によると、日本人の平均寿命は84.3歳で世界第1位です(男性は81.5歳で、スイスの81.8歳に次いで2位。女性は86.9歳で、第2位韓国の86.1歳を0.8歳上回って第1位)。そして今も延び続けています。

もはや脳卒中や心筋梗塞では
「死ねなくなった」日本人

 終戦直後、日本人の平均寿命は50歳程度で、寿命は倍近くになったわけです。もちろん、生物として日本人がどんどん進化して強くなっていったわけではありません。

 他の国々と比べて、感染症対策が行き届いていること、そして、かつて、死をもたらす“横綱”疾患であった、高血圧による脳卒中や心筋梗塞に対する予防、治療のレベルが格段に向上し、日本人はこのような疾患で死ななくなりました。いや、このような疾患では“死ねなくなった”のです。こうして、長寿の国ニッポンでは、長い「老後」が生まれました。

 その結果、がんによる死亡が“目立つように”になったのです。がんの発生率はあまり変化していないことからわかるように、がんも感染症もある意味、人生においてどうしても一定の確率で偶然に遭遇してしまう病です。

 がんは、遺伝子に傷がついて、たまたまその場所の遺伝子が働かなくなり無制限に細胞が増え続けることで起こるので、偶然性が高い疾患なのです(もちろん病原体を排除したり、がんになった細胞を殺す免疫の力は、年とともに衰えるので、高齢者ほど、こうした病気になりやすいという事実はありますが)。若い人でも、感染症やがんに罹患して、あっという間に亡くなられる人がいます。

 高齢になってからがんに罹った場合、その進行は遅いことが多いことから「がんを防ぐためにわれわれは老化する」という考えもあります。感染症が、公衆衛生管理の充実、抗生物質、ワクチンなどの開発で制圧されていく中、同じく偶然に起こる病であるがんに対する根本治療、予防法が見つからないため、がんによる死亡が日本ではトップになっているのです。