認知症や心不全は
老化負債がもたらす病
こうして日本では多くの人が長く生きることができるようになり、「老後」という期間が現れました。この「老後」という人生の延長時間も臓器は働かなければなりません。設計された期間以上に臓器が稼働するようになり、次第に、それまでには見られなかった臓器の変調、新しい病気が生まれてきました。長生きすることができるようになったのは喜ばしいことですが、同時にわれわれは新しい病気を引き受けなくてはならなくなりました。
つまり、「老化負債」によってもたらされる病気に悩まされるようになったのです。その代表が「認知症」や「心不全」です。これらの疾患は増え続けています。これまでは、“ぼける”前に死んでいたのです。心臓が“へたばる”前にわれわれは“こときれて”いました。

伊藤 裕 著
最近、優れたドッグフードが出回り、飼い犬が長生きするようになり、老犬問題が生まれたのと似ています。こうした病気は、老化負債が溜まりに溜まった末に起こった脳や心臓の不調であり、「負債病」と呼ぶことができます。
また、日本人の死因として「老衰」が増えているのも特徴的です。「老衰」ははっきりした病気が見出せず、死亡の原因が明確にわからない時につける曖昧な病名で、われわれ医師から見ると不名誉な病名です。日本で初めて見られるようになった現象です。
「老衰死」は、「老化負債」が返済されないまま、全身のさまざまな臓器の不調が重なって、それに耐えきれなくなって少しの刺激でバランスが一気に崩れ、不整脈や血圧低下、呼吸停止などが生じ「死」が訪れる状態です。家人が気がついた時には亡くなっていたというような状態です。ある意味、“大往生”かもしれません。