直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、“歴史小説マニア”の視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身おすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

【直木賞作家が教える】全国にある小説家の記念館を愉しむPhoto: Adobe Stock

全国にある小説家の記念館

日本には文学者の業績を紹介する文学館があり、歴史小説家の文学館も全国に点在しています。以下に主なものをピックアップしてみます。

全国各地の主な歴史小説家の文学館
池波正太郎記念文庫(東京都台東区)
池波正太郎真田太平記館(長野県上田市)
井上靖記念館(北海道旭川市)
長泉町井上靖文学館(静岡県駿東郡長泉町)
井上靖記念館(鳥取県米子市)
長崎市遠藤周作文学館(長崎県長崎市)
大佛次郎記念館(神奈川県横浜市)
笹沢左保記念館(佐賀県佐賀市)
司馬遼太郎記念館(大阪府東大阪市)
坂の上の雲ミュージアム(愛媛県松山市)
直木三十五記念館(大阪府大阪市)
鶴岡市立藤沢周平記念館(山形県鶴岡市)
山田風太郎記念館(兵庫県養父市)
青梅市吉川英治記念館(東京都青梅市)

旅行で行くおすすめの記念館

「旅行で行くなら」という条件で作家の記念館を挙げるなら、司馬遼太郎記念館や池波正太郎真田太平記館などがおすすめです。

面白いことに井上靖の記念館は三つもあります。私は2022年5月から9月にかけて、「今村翔吾のまつり旅」という日本一周の旅をしたのですが、そのまつり旅で鳥取県を移動していたとき、井上靖記念館の案内板を見て「あれ、鳥取は関係なかったはずなのに……」と首をかしげました。

よくよく聞くと、戦時中に家族を疎開させた縁のある土地なのだそうです。

記念館巡りの妙

山田風太郎記念館は何回も見学に訪れているのですが、山奥にあることもあり、毎回のように見つけられず、通り過ぎては戻るを繰り返しています。

なぜか笹沢左保記念館も山深い場所にあります。今、文学館は財政上の問題から施設を維持するのがどんどん難しくなっています。

海音寺潮五郎記念館は残念ながら閉鎖してしまいましたし、吉川英治記念館もいったん閉館した後、寄付を受けて再開にこぎつけた経緯があります。

記念館についての提言

作家の故郷に記念館を設立したいという気持ちはわかるのですが、いっそのこと東京などに全作家の資料を集めて、大きな「作家記念館」を設けたほうがいいのではな
いでしょうか。

コスト的にも集客的にも、そのほうがメリットが大きいのではないかと思うのです。

ところで、司馬遼太郎記念館では、司馬遼太郎の書斎を窓越しに見学することができます。万年筆や色鉛筆などがそのまま置かれていて、亡くなった日から時が止まっ
ているかのよう
です。

それだけは
すぐに捨てておいてね

それを見て、私は自分の秘書に言いました。

「俺が死んだら、書斎をそのまま残してほしい。ただし、万が一見られたら困るようなものがあったら、それだけはすぐに捨てておいてね」

冗談はさておき、記念館に行くようになったら、もう立派な歴史小説マニアといえるでしょう。

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。