処理水問題の裏に潜む
政治や社会の問題

 ただ、怖いと思っている人の中でも、科学的な知識や考え方を身につけることで、「トリチウム水は海洋放出しても問題ないんだ」「自分の体の中にもトリチウム水はあるんだ」と納得できて、安心できる人がいるかもしれない。だから、私はこうして科学の立場から発信をするしかないですね。

 そして、この処理水の話には政治や社会の問題も入り交じっています。たとえば、過去に処理水の海洋放出を行ってきた韓国がなぜ、日本の海洋放出を問題視しているのか。おそらく、1つの外交カードとして政治的に利用しているのでしょう。

 また、政府や東京電力、IAEAのことが信用できない。みんなうそをついているからこの処理水は放出してはいけない、と考える人もいます。そういった陰謀論的な仮説に対して、100%あり得ないと初めから言い切ることはできません。

 ただ、さまざまな方向から検証が行われ、科学的には問題ないと結論が出ているわけで、それも信用できないなら、もはや自分で検証して確かめるしかなくなってしまいます。

書影『フェイクニュース時代の科学リテラシー超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、ディスカヴァー携書)『フェイクニュース時代の科学リテラシー超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、ディスカヴァー携書)
竹内 薫 著

 もちろん、目にした情報について、うのみにせずいったん自分で考えてみるのはいいことです。たとえば、トリチウム以外のものは本当にちゃんと取り除かれているのか、それは証明できているのか、などの疑問は当然あっていい。そのうえで複数の専門家の意見を調べてみたりして、自分の中の情報をアップデートしていくことが大切です。

 よくないのは、自分の出した結論を決して曲げなかったり、専門家集団の中で「黒い仮説」(編集部注:たくさんの専門家が「ひとまず間違っている」としている仮説のこと)、あるいは明確に間違いだと結論が出ているのに受け入れなかったりすること。それは、科学的な思考からはもっとも離れています。

 一見して科学の問題のように思えても、感情の問題や、政治や社会の問題などが複雑に入り組んでいることも多いものです。そんなとき、ここまでは科学の問題、ここは感情の問題、ここからは政治や社会の問題、などと読み解けるようになるのが理想です。

 そのために、科学リテラシーを身につけることが非常に重要なのです。