原発の「処理水」は
怖がりすぎなくていい
2023年の夏ごろに、福島第1原子力発電所で発生した処理水を海洋放出するというニュースが、連日大きく報じられていました。
これもやっぱり、水であるがゆえに、みんなが過剰に不安を感じてしまうんですね。処理水は、IAEA(国際原子力機関)が調査して安全性をちゃんと確認しており、その海洋放出は「国際安全基準に合致している」と報告が出ています。それでも、不安に思う人の声がたくさん聞こえてきていました。
ここで処理水について、簡単に説明をしましょう。経済産業省によれば、「東京電力福島第1原子力発電所の建屋内にある放射性物質を含む水について、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のこと」です。
じゃあそのトリチウムとやらは浄化されてないの?大丈夫なの?と思われたかもしれません。みなさんはおそらく、トリチウムという有害な物質が、水に溶け込んでいるとイメージしたのではないでしょうか。実は、それは誤った認識です。
トリチウムは、化学式で言うとH2O(水)のH(水素)の部分が、普通の水素ではなくて「三重水素」になっているだけです。分子構造は普通の水素と変わらなくて、ただちょっとだけ、重い水素になっています。
もっと専門的にいうと、一般的な水素は、1つの陽子が真ん中にあり、その周りを1つの電子が回っています。トリチウムの場合は、その真ん中の陽子に中性子が2つくっついている状態です。
いずれにせよ、トリチウムは水素の一種なんですね。つまりトリチウムが含まれている水は、普通の水とほぼ同じ性質を持っています。
なぜこのトリチウムを処理水から取り除けないかというと、原子がちょっと違うだけで分子の大きさは普通の水と同じであり、区別してろ過することが、今の技術では極めて難しいからです。
違う水素を持つことはわかっているので、理論上、取り除くことは可能です。ただ、研究がたくさん行われているにもかかわらず、コスト面などから、実用化には至っていないのが現状です。