処理水の放出は
実は世界中で行われている
ではこの処理水を海洋放出するとどうなるか。処理水、つまりトリチウムが含まれた水は海の中へ拡散されていき、どんどん希釈されます。東京電力の試算によると、放水地点から2~3キロ離れれば、トリチウムの濃度は周囲の海水と同じになるといわれています。
また、放射線の影響も極めて小さく、海洋放出の影響により人間が受ける1年間の放射線量よりも、歯のレントゲンを撮った際に受ける放射線量のほうが大きいという数値が出ています。つまり、海洋放出が怖いと非難する人は、歯医者さんでレントゲンを撮ってもらえないことになります。
それに、こうした処理水の放出は、実は世界中で行われています。たとえば韓国や中国、フランスなども過去、処理水の海洋放出を実施してきました。
実際、処理水は今のまま貯めていくことが現実的に難しくなっています。原発の敷地いっぱいに置かれている状況です。その状態で、万が一また大地震が起きたらどうなるでしょうか。大量の処理水のタンクが壊れてしまう可能性だってあります。とにかく延々と貯め続けることはできないので、海洋放出が現状とることのできる、現実的な方法のはずです。
また、SNSの一部で噂になっていたことですが、トリチウムは体内濃縮される心配はありません。水を飲んでも、汗や尿として体外に排出されますよね。そのときに一緒に出ていくんですよ。さらにトリチウムは、もともと自然界にも存在しています。水道水にも含まれているし、人間の体内にもあります。
なぜこんなに大きく騒がれるのか。これは、科学の問題ではなく、「感情」の問題だからです。科学的に考えれば、トリチウムを含む水は普通の水とほぼ同じ性質を持ち、取り除くのは難しいけれど生物濃縮は起きない、と現状の決着はついています。
ただ、人間は感情の生き物です。この処理水、トリチウムの問題はいくら説明を聞いても、「そうはいっても危ないのでは」「やっぱり怖い」と思ってしまう人が出てきます。それについて議論をすることはできません。怖がっている人に対して「怖くないですよ」と言っても、その感情を消すことは難しいわけです。