
ものづくりと金型
われわれ日本人にとってものづくりという言葉は、職人技、高付加価値、オンリーワンといった良いイメージを連想させる。なかでも金型は、日本のものづくりの強みとして広く認識されている。そこで今回は、金型にフォーカスして取引先の経営改善をサポートする、当金庫の「金型管理適正化」の取り組みを紹介する。
「素形材」という言葉をご存じだろうか。素形材は、力や熱で素材のかたちを変化させて型取られた部材のことを指し、その多くは金型、木型などの型を用いて成形される。金属プレス業や鋳造業は素形材産業の代表業種であり、ものづくりの基盤といえる。
素形材産業界の大半は中小企業が占め、当金庫の顧客層も厚い。他方、中小企業が大手企業から生産委託を受ける典型的な下請け構造であり、不公正な取引慣行が残る業界でもある。工場の倉庫や駐車場にうずたかく積まれた金型の山を目にしたことがある読者も多いだろうが、それは不公正な取引慣行の一端かもしれない。当金庫はものづくりに内在する課題に着目し、取引先の本業支援を行っている。
金型管理適正化PTの立ち上げによる経営支援
金属プレス業A社は、優れた「絞り加工」(注1)と金型の内製化による短納期に強みを持ち、自動車業界におけるTier1企業と取引しているが、低採算と借入れ過多に陥っていた。当金庫の営業店担当者は、同社の受取債権長期化が資金繰り悪化につながっていることに着目し、受取債権の成因を分析した。その結果、金型に関する未収勘定が多く含まれていることに疑問を感じ、当金庫の経営サポート部に相談した。
経営サポート部に所属する専門家と共に同社へヒアリングを行うと、内製した金型の代金を24ヵ月分割で受領していることや、部品の量産が終了した大量の金型を無償保管していること、補給品(注2)の納入時に量産単価が適用されていることが判明した。これらは、金属プレス業界では当たり前に見られる慣行だが、実はいずれも下請代金支払遅延等防止法第4条に規定される親会社の順守事項に違反する恐れのある取引である。