「黒字だから問題ない」自信満々に語る社長に経営改善のプロが伝えた「財務上の大問題」とは写真はイメージです Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

「勘定合って銭足らず」酒造メーカーの苦境

 今回は、当金庫の本部専門家が関与する経営改善支援の現場を、酒造メーカーA社(当金庫と地域金融機関が並行メイン行)の事例をもとに紹介する。当金庫では、本部の専門家が能動的に関与する経営改善・事業再生支援を「ハンズオン支援」と呼ぶ。2025年1月末時点で、全国84カ店にハンズオン支援先が約500社あり、経営改善・事業再生支援の知見を持つ「クレジットオフィサー」15人が支店の融資担当者と連携して支援を行っている。

 本連載第1回で、当金庫の事業再生・経営改善支援の特徴として「徹底的な数値による経営の可視化」「積極的な経営関与」「緊密な外部機関との連携」を挙げたが、A社へのハンズオン支援はまさにこうした事例だ。ファクトベースでの経営の可視化によって経営方針や経営判断の軌道修正に至り、緊密な外部連携や積極的な経営への関与によって経営改善を後押しした。

 A社は全国的に相応の知名度を有するが、財務面の管理体制が脆弱で、計画的な仕入れ・生産・販売に課題があった。手元の資金が枯渇する寸前まで仕入れと増産を続け、計画を大幅に上回る在庫増加が生じていた。

 当金庫は、資金繰りのひっ迫が見え始めたことからハンズオン支援を開始したが、当初の社長の考えは、「当社の業績は黒字で推移しており何ら問題ない。金融機関はとにかく増加運転資金を支援してくれればよい」といった具合であった。