上司と部下が一対一で定期的に面談をするマネジメント手法である「1on1」。ヤフー(現・LINEヤフー)が2012年に取り入れたことで話題となり、広まった。ヤフーに倣って1on1を取り入れた会社も少なくないはずだ。しかし、いざ部下との時間をとっても、「特に話すことはありません」と言われてしまった経験がある管理職もいるのではないだろうか。そこで今回は、当時、ヤフーで上級執行役員を務めており、1on1の仕掛け人でもあった本間浩輔氏(現在はパーソル総合研究所取締役会長や朝日新聞社の社外取締役などを務める)の著書『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』から、話すのが苦手な部下との1on1に対するヒントを紹介する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

1on1Photo: Adobe Stock

部下に「話すことはない」と言われたら?

 会社から「部下全員と、週に1回程度、30分話す時間をつくりましょう」などと業務指示を出され、「何を話せばいいんだろう」「みんな話してくれるだろうか」と戸惑った経験のある上長も多いだろう。

 報告にしろ、相談にしろ、自分からよく話してくれる部下ならいい。そういった相手は気心が知れている相手であることも多く、会話も弾む。

 一方で、部下から「特に話すことはありません」と言われてしまうこともある。

 しかし、「話すことがない」と言われて「そうですか、じゃあ解散しましょう」とするわけにはいかないのが悩みどころだ。

 一体どうしたらいいのだろうか。

部下から話を引き出す3つの方法

 本間氏は、話すのが苦手な部下との1on1の際に、「話題を3つ用意するのがおすすめ」と語る。

 それは「勤怠」「観察」「取材」の3つだ。

「勤怠」の話題とは、「勤務態度の変化についての話だ」と本間氏は語る。

いつも朝7時半に会社に来ている人が急に9時に出社するようになったり、突然半休が増えたりという、勤怠態度の変化についての話です。
そんなことがあったら、「最近、朝ちょっと遅いけど大丈夫?」とか「半休が増えているみたいだけど、どうしたの?」と聞いてみる。それがヒントになって部下が話し始めることがあります。(P.190)

「観察」は、「あのテーマについて話してるとき、すごくいきいきしているよね」などと、普段の働き方についてフィードバックをすることだ。

管理職にとって、部下の変化を日頃から観察しておくことは必須のスキルです。「特に話すことはありません」と言われても、日頃の部下を観察していれば上長の側から「昨日頑張ってたよね」「あの仕事をやってたよね」と水を向けて、対話を広げることが可能です。(P.190)

 そして「取材」とは、部下の周りの人に話を聞くことだという。

「明日、Cさんと1on1なんだけど、最近のCさんってどう?」と聞いてみる。すると、「あっ、いいタイミングですよ。実はCさんはね……」と何らかのエピソードが出てくることがあります。(P.191)

 こうしたスキルを使って、会話を引き出す切り口にすると、部下と向かい合ったまま黙って時間を過ごすことはなくなりそうだ。

重要なのは「話すことがない」と言った理由

 一方で、「話を引き出すスキル以上に重要なのは、なぜ部下は『特に話すことはありません』と答えたのかです」と本間氏は注意喚起する。

 本間氏によると、その理由は大きく次の2つだ。

1つは、「あなたは私の話なんて聞きたいと思ってないでしょ」と思っている。つまり信頼感の欠如です。要するに、「話すことがない」のではなく、「あなたには話したくない」という意思表示であることが多い。(P.191)

 確かに「別に……」と言って黙り込んでしまう部下は、普段から何か不満げだったりすることが多い。

 その理由を聞きたくて1on1を実施したとしても、そう簡単に話してくれるわけではない。

 このような状態にならないようにするには「日頃の観察」が必要だという。

 何を頑張っているか、誰と交流を持っているかなど、「『あなたのことを見ているよ』というメッセージを伝えられると部下もそれに答えてくれる」と本間氏は語る。

 もう一つの理由は、「言語化が苦手な部下なのかもしれない」ということだ。話をしたくないのではなく、考えていることを言葉にできないのだ。

 そういった部下への対処法としては、「事前にテーマを決めてメモを書いてもらうといい」と本間氏。

 たとえば、「今週やって成功したこと」など、1行でもいいからメモを書いてもらう。

 そうすることで、本人の振り返りにもなるし、そのメモをもとに話を進められる。本間氏おすすめの方法だ。

部下にも1on1の意義を伝える

 部下との日頃の関係性や、部下の性格によって1on1の進め方を変えるのは当然だ。

 しかし、もう一つ忘れてはならないのが「1on1について、部下側への十分な情報提供を行うこと」だ。

 1on1の意義が部下側に落ちていなければ、部下もどういった準備をして1on1に臨めばいいかわからない。

管理職に対してのみ1on1の研修を実施して、部下には何もしないのでは、制度運用として不十分です。研修が無理でも、イントラネットを活用したり、経営側が正しくメッセージを発信することにより1on1の意義について補完することは可能です。(P.192)

 1on1は月に数回、30分程度とはいえ、忙しい毎日の中の貴重な時間だ。

 部下にとっても上長にとっても、意義のある時間にしたいものである。