医者の道を譲ったのは
千尋の方便か、昔の儚さによるものか?
医者の道を譲ったのは、法学がほんとうに学びたいのと、血が苦手であることだった。法学に興味を持ったことは本当だと思うが、血が苦手は方便だろうか。
法によって弱い人を守りたいと、かっこいいことばかり言うと反感を買うが、こういうことを言えば、嵩もしょうがないと思ってくれるかもしれないとか。いや、血が苦手というところが幼い儚げな千尋がまだいるようでもある。体は大きくたくましくなったけれど、どこか弱いところが残っているのかもしれない。
では、嵩はどうか。嵩はまだやりたいことが見つからず、ひとまず受験しようと考えていた。それは登美子が喜ぶ顔を見たいから。昔はよく笑っていたのにいまは浮かない顔をしているのが嵩は気になっていた。やさしい嵩。
ふたりの話を聞いた寛は「何のために生まれて何をして生きるのか。みつかるまでもがけ。必死でもがけ」と『アンパンマンのマーチ』(やなせたかし作詞)の歌詞のように励ました。
この場面、『アンパンマンのマーチ』オマージュという印象である。このドラマ的には、こういった出来事がのちに『アンパンマンのマーチ』を生み出すのだという、いわば『アンパンマン』ビギニングである。
「もう大丈夫。嵩は本気になりました」と登美子はにこにこ。
あんなに反目し合っていた登美子と千代子(戸田菜穂)が仲良く並んで商店街を歩く。意外に思うヤムおんちゃん(阿部サダヲ)に、羽多子(江口のりこ)が「おんなじ目標ができたら女は結束するがですよ」と冷めた目で言う。
羽多子は、一貫して客観的、中立な態度をとっている。そのなかで暴力はいけないという考えだけはブレていない。よくできた人である。
『あんぱん』のなかでは寛と羽多子が道徳的である。ヤムはいいことは言うけどエキセントリックである。
話を戻して、羽多子の言う「同じ目標」とは、嵩が難関・高知第一高等学校に合格すること。その日の夕食はうなぎだと千代子は言う。