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マーケターとして、P&Gやロート製薬、ロクシタン、スマートニュースで多くの実績を残してきた西口一希氏。同氏が、ビジネスの現場で本当に使えるマーケティングの活用法を解説します。今回は、マーケティングで絶対やってはいけない「ダークサイド(暗黒面)」と、西口氏が「秀逸」と絶賛する製品プレゼンの両面をご紹介します。本稿は、西口一希氏の著書『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(日本実業出版社)より、その一部を抜粋・編集したものです。
陥ってはならない
マーケティングの「ダークサイド」
さまざまなプロダクトのマーケティングに携わるなか、「よい広告って、どんなものですか?」と聞かれることがあります。非常に難しい質問ですが、それに答える前に、反対の「ダメな広告」について考えてみましょう。それは、消費者を欺く広告です。マーケティングには「ダークサイド(暗黒面)」があるのです。
プロダクトを開発して販売する際には、「プロダクトアイデア」と「コミュニケーションアイデア」の2つが必要になります。プロダクトアイデアとは、商品やサービスがどんな便益と独自性を持つかに関わるアイデアです。コミュニケーションアイデアとは、プロダクトの便益と独自性をお客さまに伝え、購買行動を起こしてもらうための訴求のアイデアです。
コミュニケーションアイデアでは、キャッチコピーをつくったり、見せ方や、伝え方を考えたりするわけですが、プロダクトが提供しえないものまで提供できるかのようにコミュニケーションアイデアを工夫して(操作して)伝えようとするのが、マーケティングのダークサイドです。
たとえば、広告と実際の商品が違うケースもそれにあたります。実際に店頭で商品を見て「がっかりした」という感想を持つお客さまもいます。もちろん、提供する側からしてみれば、お客さまををがっかりさせたいと思って広告をつくっているわけではないでしょう。ぜひ買っていただきたい、食べていただきたいという思いでつくっているはずです。
ただ、期待していたものと実際の商品があまりにも違う場合は、お客さまによる「価値の再評価」が行われ、その結果として離れていく人もいます。
「いや、それでもやはり商品自体はいいから買い続ける」というように、そもそもプロダクトの提供している便益が強力であれば、継続して購入してくれるお客さまもいます。広告に関しては多少がっかりしたけれども、購入し続けるという人もいるかもしれません。そのあたりの判断基準は難しいですが、やはり企業としては、プロダクトアイデアとコミュニケーションアイデアの間にあるダークサイドに落ちないよう、高いモラルを持ち続ける必要があります。
インターネット上の広告などを見ていると、まさにダークサイドではないかと思うものもたくさんあります。
たとえば、美容系のプロダクトでよくあるのが、「美容液を塗っただけで、20歳若返って見える!」といったような広告です。推定50代の女性がそのプロダクトを使用したことで一気に若返り、まるで20代に見える写真を並べている広告などもよくありますが、合理的には考えられない変化であり、信頼に足るものとはいえません。
ダイエットのサプリメントの広告などでも、使用前と使用後の写真の縦横比率を明らかに変えているものも見られます。
某飲食チェーン店が、ある特定商品の販売を告知する広告を出しながら、実際には売り切れ続出で販売できなかったために、おとり広告といわれ、「景品表示法違反」で措置命令を受けたこともありました。企業広告に対して消費者庁や広告審査機構が厳しくチェックをしたり、是正勧告を出して指導したりする理由は、消費者の価値を守るためです。
このように、マーケティングにはお客さまに対する倫理観やモラルが強く求められているのです。
「ダークサイド」と
「過小評価」のジレンマ
それにしても、なぜこうしたマーケティングのダークサイドが生まれるのでしょうか。
企業はブランド名やロゴ、パッケージ、キャッチコピー、パンフレット、広告、PR、SNSなどお客さまに対するコミュニケーションアイデアを通して、プロダクトの持ち得る便益と独自性を訴求していきます。その段階で、訴求する内容が実際のプロダクトの価値よりも大きくなれば、お客さまの「過剰期待」を生んでしまいます。過剰期待を生めば、とりあえず1回はプロダクトは売れる可能性がありますが、一過性の売上で終わる可能性も高くなります。
一方、実際のプロダクトが提供できる便益と独自性よりも訴求する内容が弱い場合は、「過小評価」になります。そうすると、「潜在的な売上の未実現」が起こります。もっと売れるはずなのに売れないということになってしまうのです。こうしたジレンマの間で、マーケティングに関わる人は悩みます。
企業にとっては、過剰期待をさせてしまうか過小評価されてしまうかというジレンマの間で、一過性の売上ではなく、継続性のあるかたちでプロダクトが提供する便益と独自性をきちんと訴求していくことが重要になってきます。







