「新商品信仰」にとりつかれている人たちが必ず見落としている「重要すぎる指標」

「新しい製品やサービスを次々に出さないと、売上は伸びない」
あらゆる商材において、次々と新製品がリリースされる日本に暮らしていると、さも新製品がヒットするか否かが、売上、ひいては社の業績に直結していると思われがちです。
しかし、『アフターコロナのマーケティング戦略 最重要ポイント40』を刊行した、足立光氏(ファミリーマートCMO)と西口一希氏(Strategy Partners代表取締役、M-Force共同創業者)によると、「そもそも新製品は、顧客にとって価値となっているのだろうか」と問います。日本を代表するマーケター2人が指摘する、「新製品信仰」に陥った人が見落としてしまう「重要すぎる指標」とは?

「NEW!」は本当に価値なのか?

「新商品信仰」にとりつかれている人たちが必ず見落としている「重要すぎる指標」足立 光(あだち・ひかる)
株式会社ファミリーマート エグゼクティブ・ディレクター、チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)
P&Gジャパン株式会社、シュワルツコフ ヘンケル株式会社社長・会長、株式会社ワールド執行役員、日本マクドナルド株式会社、株式会社ナイアンティック シニアディレクター プロダクトマーケティング(APAC)を経て、2020年10月より現職。日本マクドナルド時代は、上級執行役員·マーケティング本部長としてV字回復をけん引し、大いに話題となった

 日本の消費者は飽きっぽいから、新しい製品やサービスを短いサイクルで絶えず出しつづけないと、売上は頭打ちになるという考え方が企業には根強くあります。コンビニエンスストアには新製品が次々と投入され、書店の店頭にはいつもさまざまな新刊本が並び、自動車も発売して1年でマイナーチェンジを加えるなど、モデルチェンジを頻繁に行います。

 ひるがえって海外市場を見ると、同じブランド、同じサービスで、ビジネスを伸ばしている業態はたくさん存在します。おそらく日本では新製品の数が圧倒的に多いから、余計に新しいものを出さないと売上が伸びないように見えてしまうのかもしれません。

 新製品に取り組むと、社内でも盛り上がって支持されやすいので、より新製品をどんどん投入しようという方向に進む傾向もあります。また、どのマーケットにも新しい製品を好むイノベーター層が一定数いるので、少なくとも当初は売りやすいのも事実です。

 その一方で、新製品の売上や利益への貢献度を見ると、それほど大きくないというのが実態です。たとえば、コンビニやファストフードで、毎月のキャンペーン品の売上は、多くても全体の2割程度。それよりも定番品と呼ばれるものを伸ばさないと、売上や利益は非常に厳しくなります。

 ところで、新しいことは本当に価値と言えるのでしょうか。「NEW」とついたパッケージをよく見かけますが、これだけ新しいものがある日本において、新しいだけでは何の価値も伝わりません。パチンコ店はよくリニューアルすると伸びると言われていますが、実際に新規顧客が増えているわけではありません。リニューアル当初は、キャンペーンで玉の出がよくなるから、みんなが来るだけです。

 新しく「ここがよくなった」という具体的な訴求内容があり、それが新しい顧客に便益として響いて、ビジネスが伸びていかなければ、リニューアルする意味はありません。

「全体のマーケット」を本当に把握しているか?

「新商品信仰」にとりつかれている人たちが必ず見落としている「重要すぎる指標」西口一希(にしぐち・かずき)
株式会社Strategy Partners代表取締役、M-Force株式会社共同創業者
P&Gで数々のブランドのブランドマネージャー、マーケティングディレクターを歴任した後、ロート製薬執行役員マーケティング本部長、ロクシタンジャポン代表取締役、スマートニュース社マーケティング担当 執行役員を経て現職。スマートニュースを、アプリの累計ダウンロード数5000万、月間使用者数2000万人、企業評価金額が10億ドル(約1000億円)を超えるユニコーン企業へと導いた

 コンサルティングをしていて感じるのは、多くの潜在顧客を取りこぼしたまま、新たに製品やサービスを次々と打ち出し、その企画や実行のために工数や人員をかけ、各製品やサービスで獲得した顧客をつなぎとめるためのコストがかさみ、全体として利益率が落ちていくケースが多いことです。まだ10倍、100倍と成長できるはずなのに、頭打ちかもしれないと誤解している製品やサービスが世の中のほとんどなのです。

 その原因は、既存の製品やサービスが本来視野に入れるべきマーケット全体を見ていないことにあります。つまり、その製品が100%のシェアをとったら、顧客の数は何人なのか。既存の製品やサービスで獲得できる潜在的な顧客はまだどのくらい残っているのか。本当に新製品や新サービスでなければ、潜在顧客は獲得できないのか。そういう検証が十分にされていないのです。

 これはTAM(Total Addressable Market)という考え方で、その製品やサービスで獲得可能な市場規模を指します。しかし、コンサルティングに行くと、もともとのターゲットマーケットを設定していない、あるいは、その規模感を把握していないケースが非常に多く見られます。もう市場が伸びない、限界だと言う割には、実際にとれているシェアは全体の数%にも満たなかったり、認知率も数%だったりします。言い換えると、マーケット全体での、自社の製品やサービスの立ち位置が見えていないのです。

 TAMを把握していないということは、顧客をよく見ていないとも言えます。本来は、その商品を提案したら喜んでくれる顧客が存在するにもかかわらず、提案していない状態であきらめているからです。

 一方、そこにチャンスを見出して大胆な投資をすることで、後発企業が逆転する状況もあります。フリマアプリのメルカリや印刷シェアリングサービスのラクスルは決して先行していたわけではありません。しかし、1番手のプレイヤーが築いた城以外に大きな荒野が広がっていることに気づいて攻め込み、いつの間にか1番手を追い抜き、カテゴリートップのブランドになっていました。

 こうした逆転劇からわかるように、自分たちによく見える狭い範囲だけを切り取り、そこで売上が伸びなくなるとあきらめて、新製品の開発に活路を見出すやり方には、大きな機会損失があります。未認知の顧客はどれだけいるのか、その顧客にはなぜ認知されていないのか、認知されているが購買しない顧客は何人いて、なぜ購買しないのかと、マーケット全体を見ながら戦略をつくれば、もっとチャンスは広がります。