リニア中央新幹線の開通と同時に進行する「空の移動革命」

リニア中央新幹線の山梨県駅(仮称、甲府市)の着工が迫る山梨県。リニア開業によって移動のあり方が劇的に変わることが予想される中、山梨県はさらに新たな移動手段を用いることで、利便性の高い交通ネットワークの構築を図ろうとしている。なかでも目玉となっているのが、県内での社会実装を目指している「空飛ぶクルマ」だ。

リニア中央新幹線が開通した場合、甲府は品川まで約25分、名古屋まで約45分と移動時間が短縮される。リニアの駅はJR甲府駅から南に約7kmの場所となり、交通結節の拠点となる。そこに、空飛ぶクルマを連携させようという山梨県の狙いはどこにあるのか。山梨県 リニア・次世代交通推進グループの宮川新一氏によると、「高齢化率の高い人口規模、山地割合が8割を超える地域が持つ交通課題への解決に加え、富士山をはじめとする県内観光資源の高付加価値化の推進など、本県が持つポテンシャルを最大化する」ための移動システムであるという。

LRT、空飛ぶクルマは地域の救世主となるか? 地方自治体の挑戦山梨県
リニア・次世代交通推進グループ 宮川新一 氏
(所属はイベント開催時。現リニア・次世代交通推進課)
山梨県甲府市出身。広島大学法学部卒業後、2011年山梨県庁に入庁。リニア中央新幹線の用地取得や市町村への出向(農林業振興)、観光振興、企業の県内進出支援などの業務を経験する。2023年現在の部署(リニア・次世代交通推進グループ)に異動し、主に「空飛ぶクルマ」の社会実装の実現に向けた業務を実施中。

現在の山梨県内における移動実態を見ると、東西に中央自動車道と中央本線、南北に中部横断道と身延線が通っており、基幹的な導線は一定確保されている。その一方、山間部の過疎地域など移動が不便な場所も数多く存在している。現在、山梨県には空港がなく、県警や病院などのヘリポート(非公共用)が3つあるのみだ。空飛ぶクルマを実装できた場合、たとえば甲府盆地の中央から富士山へ、車や電車で60〜120分かかるところを約20分程度で移動可能になる。

宮川氏は、空飛ぶクルマの社会実装により2つの効果が期待できると指摘する。「リニアと空飛ぶクルマを組み合わせることで2次交通を充実化させ、たとえば本県に点在する資源をつなぎいっそうの高付加価値化を推進することで、山梨県の持つ魅力の最大化につながります。また、人口減少・高齢化が進み、公共交通は厳しい状況にある中でもその役割の重要性が増しています。地上のインフラにおける維持管理に今後も多額のコストがかかるなど、マイカー保有率の高い本県はさまざまな課題を抱えていますが、空を活用することで地域交通の下支えになることが期待でき、マイカーの有無にかかわらず誰もが住み慣れた場所で豊かな住生活を送ることが実現できるのではないかと考えています」

LRT、空飛ぶクルマは地域の救世主となるか? 地方自治体の挑戦

山梨県では、2020年代後半を空飛ぶクルマの活用初期とし、一部のエリアでの遊覧サービスから始めて、2030年代に拡大期としてリニアと組み合わせ、2040年代の成熟期に向けてエリアやルートが網の目のように広がる世界観を描いている。

宮川氏は、「リニア駅という移動の拠点、交通の結節点にモビリティが導入され、各エリアにつながっていく未来。空飛ぶクルマや自動運転バス、モビリティハブ、ニューモビリティなどが相互に組み合わさって、山梨県内のエリアがつながり合い、価値を高めていけるような世界観をこれからも目指していければ」と語った。

山梨県は空飛ぶクルマの事業を山梨県版の「空の移動革命」と位置付け、観光やビジネスでの新たな価値創出、日常生活での活用を見込んでいる。社会実装に向けて国や民間企業、自治体などとのネットワークを構築し、幅広い分野から事業者の参画を促していく見込みだ。

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モビリティ先進事例のプレゼンテーション終了後、参加者も交えて「移動革命と地域社会改革のエコシステムづくり」をテーマにラウンドテーブルのディスカッションが行われた。

LRT、空飛ぶクルマは地域の救世主となるか? 地方自治体の挑戦

「都市部と地方部の社会課題解決に、次世代モビリティはどのように貢献を果たすと考えるか」「次世代モビリティのテクノロジーは自社のサービスにどのような変化をもたらすか」といった具体的なテーマをもとに白熱したディスカッションが展開された。参加者からは「移動サービスに関しては都市部よりも地方の課題が大きく、緊迫性が高い」「移動サービスのビジネスは自治体との連携が重要。自治体はまちづくりのグランドデザインを描いたうえで必要なモビリティを導入すべきではないか」といった意見が出た。議論は都市や地方のまちづくりや、移動サービスと自治体の共創といった未来の日本社会のあり方へと発展していった。

ディスカッションでは、参加者の誰もが積極的に議論を交わし、終了後の懇親会で名刺交換や歓談など、リアルのネットワーキングが活発に行われた。モビリティの未来を担う参加者とプレゼンテーターのつながりが、5年後、10年後の移動ビジネス革命へとつながる可能性を感じさせるラウンドテーブルとなった。

 

◉構成・まとめ|石澤理香子、久世和彦 ◉撮影|奥西淳二