ある企業で、長時間の会議中に脳梗塞で倒れた人がいました。夏場で、陽が差し込む位置に座っていた人ですが、「会議中に水を飲むのはカッコ悪いと思って、我慢していた」と聞いて呆れてしまいました。こうした企業風土は、バブルが弾けて不景気になろうと、外資系の企業がたくさん上陸してこようと、依然として残ったままです。

 そうした我慢の延長線上に、「メンタルの不調を自覚しても、周りに言いにくい」雰囲気があります。特に日本の企業では、身体的な病気に比べ、メンタルの不調にはマイナスイメージがつきまといます。「感じやすさ=弱さ」と決めつけてしまう傾向が強いためです。

 20年ほど前に渡辺淳一さんの『鈍感力』という本が売れましたが、鈍感な人は現実には困り者です。こういう言葉がもてはやされることを裏返せば、世の中の大半の人は敏感なのです。そして、感じないふりや見ないふりをして鈍感であることに救いを求めたのでしょう。

 しかし感じないというのは感覚の麻痺ですから、実は怖いことです。身体もメンタルも敏感なればこそ、異常や不調に気付き、早期に治療や改善ができるのです。

社員がポロポロ辞めていく
会社の共通点とは?

 アメリカの心理学者アーノルド・ミンデルは、集団や文化が無意識に内包する見えない影響や価値観のことを、「ゴースト」と呼んでいます。このゴーストが、「暗黙のルール」や「隠れた権力」を形づくるものの正体です。

 ミンデルは、日本における「ゴースト」についても指摘しています。それは「お上」という概念で、日本には長い歴史を通じて「お上」を尊重する意識や従順さが根付いていると指摘します。

 かつては主君を意味し、近年では公的権力者を意味するのが「お上」という言葉です。しかし企業においても、「上の人には逆らわず、従うことが美徳だ」という価値観が無意識に染み込んでいることは、間違いありません。大学やアカデミックな場所に身を置く私でも、縦型の意識が脈々と続いていることを痛感します。

 しかし問題は、そうした心理的な束縛が存在すること自体にあるのではありません。存在することに気付いていない、または気付かないふりをしていること、なのです。