スマホ、ネット、SNS……気が散るものだらけの世界で「本当にやりたいこと」を実現するには? タスクからタスクへと次々と飛び回っては結局何もできない毎日をやめて、「一度に1つの作業」を徹底する「一点集中」の世界へ。18言語で話題の世界的ロングセラーの新装版『一点集中術――限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』より、特別に一部を紹介する。

人生を「満喫できる人」「後悔が残ってしまう人」のたった1つの違いとは?Photo: Adobe Stock

人生を本当に味わうには?

 2007年、世界的に著名なバイオリニストのジョシュア・ベルは、ある実験に協力した。彼はワシントンDCの地下鉄に乗り、ランファン・プラザ駅で下車すると、バイオリンケースを広げ、チップをもらえるように床に置いた。そして数百万ドルもの価値のあるバイオリンを45分間、弾きつづけた。

 足をとめて演奏に耳を傾ける人はほとんどいなかった。ベルはチップで32ドル稼いだ。

 とはいえ、よく立ちどまり、演奏に聴きいる世代がひとつだけあった。子どもたちだ。

 多忙なおとなたちは、場合によっては1分あたり1000ドル支払わなければ聴くことができない音楽家の演奏を無料で楽しむまたとないチャンスを逃したのである。

 つねにあわただしくすごしていると、感動したりよろこんだりする感性が失われてしまう

 だがシングルタスクを本気で心がけ、「いまここ」に意識を集中させていれば、思わぬタイミングで意識を向けるべき現象が起こったとき、それに気づくことができる

 一方で、注意が分散した状態で周囲の世界を眺め、何があろうとさっさと通りすぎていると、人生に一度しかないような絶好の機会を逸するのだ。

「いまという瞬間」を満喫する

 脳科学者のグレゴリー・バーンズが、作家のピーター・カミンスキーが、「濃密な現実」、あるいは「現実を超える現実」について、次のように話したと書いている。

「心から何かを楽しんでいるとき、そこにはべつの現実がある。私はそれを『特別な時間(スペシャルタイム)』と呼んでいる。そのなかにいるとき、私は生を満喫し、完全に集中している。一瞬一瞬が、はじけて果汁をしたたらせる完熟した果物のように感じられる」

 バーンズは、「そんなとき、脳内において記憶に焼きつく超越的な瞬間が立ち現れる」と述べている。

 いまという瞬間を心から味わう練習を重ねていけば、「生きることを満喫」できるようになる。

 そうして、濃密な「特別な時間」を体験する能力を身につければ、幸せを実感できると同時に、持てる能力をもっと発揮できるようになるのだ。

(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術――限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』からの抜粋です)